加害者が飲酒運転だった場合の慰謝料は?
加害者が飲酒運転だった場合、過失割合が被害者に有利に修正される場合があります。またお怪我をされた場合、示談時に請求する慰謝料の金額についても、飲酒運転であることが慰謝料増額の事由となりうる可能性もあります。
今回は、加害者側が飲酒運転であった場合に、被害者として覚えておくべきポイントを解説いたします。
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この記事の目次
飲酒運転についての解説
飲酒運転の定義と発生状況
飲酒運転とは、文字通り体にアルコールを保有した状態で自動車などの車両(つまり、四輪車に限りません。)を運転することを言います。
飲酒運転による交通事故は、平成18年に福岡県で幼児3名が死亡する重大事故が発生したことを契機に大きな社会問題となりました。その後、平成19年の飲酒運転厳罰化、平成21年の行政処分強化などにより、飲酒運転事故は年々減少しています。
しかし、近年では下げ止まり傾向にあり、まだまだ飲酒運転による悲惨な事故は後を絶ちません。飲酒運転は極めて悪質な犯罪で、刑事事件だけではなく、民事事件(交通事故の損害賠償請求の場面)においても被害者の保護をより一層図らなければなりません。
飲酒運転に関する法律上の分類
体内にアルコールが保有されていたら、すべてが違反(違法)になるわけではありません。飲酒により血中または呼気中のアルコール濃度が、一定の数値以上の状態で運転することを特に酒気帯び運転と言います。
そして、上記数値に関係なく、飲酒により、運転能力を欠く状態での運転を特に酒酔い運転と言います。
酒気帯び運転について
違反となる酒気帯び運転は、通常の健康人の血液中に常時保有されている程度以上にアルコールを保有して車両を運転することを意味し、血液1mlにつき0.3mg又は呼気1lにつき0.15mg以上の状態で車両を運転することを言います。
酒酔い運転について
違反となる酒酔い運転は、酒に酔った状態、つまりアルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で運転することを意味します。
道路上の直線の上を歩かせてみて、ふらつくか否か、視覚が健全に働いているか、運動機能や感覚機能が麻痺していないか、その他言動などから判断・認知能力の低下がないかなどの点を総合的に考慮して判断されます。
飲酒運転が、慰謝料の増額事由になる可能性
飲酒運転によって被害に巻き込まれた被害者の方々は、通常設けられている慰謝料基準よりも増額される可能性がありますので、その点を考慮することなく、示談することのないようご注意ください。
酒気帯び運転の場合も酒酔い運転の場合も慰謝料の増額事由となる可能性があります。飲酒の量、過去の飲酒事故歴(反復性)、事故態様、事故発生後の状況等も鑑み、被害者側に通常の程度を超えて精神的苦痛が生じたと評価できる場合、増額されることとなります。単純に飲酒運転=増額というものではありませんので、その点はご注意ください。
通常の慰謝料基準に関する解説は、「交通事故の被害で発生する慰謝料の種類」をご参照ください。
慰謝料が増額された過去の裁判例
東京地裁 平成16年3月4日判決
【事案】
被告が酒気を帯び、アルコールの影響により正常な運転ができない状態で、加害車両を対向車線に進入させたために生じたものであり、本件事故後、被告が携帯電話をかけたり、小便をしたり、煙草を吸ったりするだけで、救助活動を一切しなかった、捜査段階で被害者がセンターラインを先にオーバーしてきたなど不自然な供述をした死亡事故事案
【判決】
3,600万円の慰謝料(基準額2,800万円)
大阪地裁 平成21年1月30日判決
【事案】
神経系統の機能に著しい障害(5級2号)を残した会社員について、傷害分290万円(入院207日、通院約6か月)のほか、加害者が酒気帯びで追突したという後遺障害事案
【判決】
1,700万円の後遺障害慰謝料(基準額1,400万円)
東京地裁八王子支部 平成15年4月24日判決
【事案】
被告の飲酒の上での一方的過失による事故であり、事故後被害者を救護等せずに現場から逃走し、被害者に頚椎捻挫、左膝打撲の傷害を負わせ、6か月通院を要した傷害事案
【判決】
140万円の慰謝料(基準額89万円)
どの程度、慰謝料が増額されるのか
飲酒運転により被害を被った場合、その慰謝料額が増額された事案は、上記の裁判例以外にもたくさんあります。ただ、どの程度増額されるのかといった目安は明らかではなく、死亡事故か傷害事故か否か、傷害事故だったとして、部位・程度、後遺障害等級や内容によって個別具体的に判断されますので、一概に判断することができないのが現状です。
ちなみに、「死亡」という同様の結果の事件で検討した場合、裁判所は、慰謝料額の基準が設けられた意義に鑑み、割合的に2~3割増、最大でも1.4倍程度が目安になるのではと考えているようです。
飲酒運転は過失割合が有利に修正される可能性がある
一般に飲酒時には、安全に運転するための必要な注意力、判断力などが低下している状態にあります。気が大きくなって速度超過などの危険な運転をする、車間距離の判断を誤ってしまう、危険を察知することが遅れてしまう、危険を察知したが、ブレーキをするまでの時間が長くなってしまうなど、飲酒運転は交通事故発生に結びつく危険性がより高い状態です。
そのような不注意の状態を過失割合に影響させないこととなると被害者にとって極めて不公平な結果となり、妥当ではありません。そこで、飲酒運転の場合、過失割合が被害者に有利に修正される場合があります。
上記の判タにも、その旨記載されています。基本の過失割合から修正すべき要素がある場合、つまり相手方に「著しい過失」、「重過失」がある場合、それぞれ10%~20%程度修正されることが多いです。
酒気帯び運転の場合
酒気帯び運転の場合は、「著しい過失」として、過失割合を10%程度修正することが多いです。
著しい過失とは、通常の不注意を超えて、脇見運転等の著しい前方不注視、携帯電話を見ながら運転するなどをいい、酒気帯び運転の場合も、この「著しい過失」に分類されます。
先ほどご紹介した出会い頭の事故の例において、B車が酒気帯び運転であった場合、基本の過失割合であるA車40%:B車60%から、10%A(被害者)に有利に修正し、A車30%:B車70%となります。
酒酔い運転の場合
酒酔い運転の場合は、「重過失」として、過失割合を20%程度修正することが多いです。
重過失とは、著しい過失よりもさらに重い、故意(わざと)に比肩する重大な過失を言います。たとえば、居眠り運転、無免許運転、時速30キロ以上の超過運転などがあり、酒酔い運転の場合も、この「重過失」に分類されます。
先ほどご紹介した出会い頭の事故の例において、B車が酒酔い運転であった場合、基本の過失割合であるA車40%:B車60%から、20%A(被害者)に有利に修正し、A車20%:B車80%となります。
(補足)飲酒運転の場合の刑事罰
加害者に課される刑事罰
道路交通法によって、飲酒運転をした場合、酒気帯びの場合は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金、酒酔い運転の場合は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります。
人身事故を起こした場合の刑事罰
自動車の運転により人を死傷させた場合、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」によって、処罰されます。
同法第5条において、「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」と規定されております。
危険運転致死傷罪の適用可能性
もっとも、本稿でも解説しました飲酒運転という悪質な行為が原因とされるものに対して、さらに厳罰を望む社会的運動の高まりを受け、上記法律の第2条においては、「次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。」として、「一 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」との規定がなされています。
まとめ
加害者が飲酒運転だった場合、あなたの過失割合や慰謝料の金額について、本記事でもご紹介したとおり、有利に交渉を進められる可能性があります。
しかしながら、飲酒運転といっても交通事故の内容は様々でして、どの部分が具体的にどのように有利になるのか、一般の方々では判断できないことも多くあるでしょう。
そこで、加害者が飲酒運転で被害に遭った場合、すぐに専門的な知識を有する弁護士へ相談いただければ幸いです。