交通事故慰謝料の3つ計算方法
交通事故の被害に遭って怪我を負った、又は後遺障害が残った場合、いずれにしましても、被害者が受けた精神的な苦痛に対する補てんとして、慰謝料の賠償が認められています(民法710条)。
裁判所は、交通事故の損害額を確定して事件を解決するため、それぞれの交通事故の事故態様や被害者がどれだけ精神的に傷つけられたかについて、交通事故の事故態様や被害者の属性毎に類型化したうえ、「一定の目安」として、慰謝料金額の算定基準を設けています。
現在の裁判では、このような類型化された基準に基づく計算式を用い、ある程度画一的に慰謝料を算出することで、交通事故事件の迅速な解決を図るようになっています。
以下では、交通事故のお怪我や後遺障害に関する具体的な慰謝料の計算(基準)について説明します。
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この記事の目次
そもそも慰謝料とは何か
お怪我に対する慰謝料は、①治療期間中の苦痛に対するものとして、「傷害慰謝料」、②治療後も残ってしまった症状に対するものとして、「後遺障害慰謝料」の2種類があります。
傷害慰謝料とは
傷害慰謝料とは、先ほども述べましたが、交通事故によって怪我をした場合に、怪我をした部分が痛いという苦痛、日常生活等に支障が出てしまうことによる苦痛、病院に入通院しなければならない苦痛を慰謝料として賠償してもらうことをいいます。
後遺障害慰謝料とは
治療をしても、回復しない症状が残ってしまった場合、「後遺障害」として認められることがあります。後遺障害が残ると、今後、その症状と向き合いながら生活を続けていかねばならず、大変な苦痛を伴います。このような苦痛は、治療期間中の慰謝料ではカバーされていないため、傷害慰謝料とは別枠で、後遺障害慰謝料として賠償してもらうことができるのです。
なぜ基準(計算式)が設けられているのか
たくさん発生するすべての交通事故被害者に対し、慰謝料等の各損害項目について、計算基準を設けることなく個別的に判断してしまうと、審理する裁判官によって結論にばらつきが出てしまう危険があります。
残念ながら、毎日多くの交通事故が発生している我が国では、裁判所が、すべての事故について個別的に判断することになってしまうと、大変な負担で時間が足りず、審理に多大な時間を要してしまいます。
そこで、上記でご説明した通り、慰謝料には、計算基準を予め定めております。そして、この計算基準は、以下のとおり、裁判所が定めているもの以外にもあります。
自賠責保険(計算)基準について
自賠責保険の計算基準とは
自賠責保険とは、原動機付自転車を含むすべての自動車が、自動車損害賠償保障法に基づき強制的な加入を義務付けられている保険です。自賠責保険に入っていなければ、運転することはできません(無保険運転は違法です。)。
加害者が負うべき経済的な負担を補てんすることにより、基本的な対人賠償を確保することにより被害者救済を第一の目的としています。簡単に言えば、最低限度の補償を定めた保険です。
なお、無保険車による事故、ひき逃げ事故の被害者に対しては、政府保障事業によって、救済が図られています。そして、この自賠責保険は、自動車損害賠償保障法によって慰謝料の計算基準が定められています。
傷害慰謝料の計算基準
自賠責保険における傷害慰謝料の計算基準の基本は、
①慰謝料は、1日につき4,200円とする
②慰謝料の対象となる日数は、被害者の傷害の態様、実治療日数その他を勘案して、治療期間の範囲内とする
③妊婦が胎児を死産又は流産した場合は、上記のほかに慰謝料を認める
という3点になります。
もう少しわかりやすく計算式をご説明しますと、傷害慰謝料は、1日あたり4,200円と決められています。計算基準となるのは、治療期間と実治療日数です。
治療期間とは文字通り、治療開始日から治療終了日までの日数を指し、実治療日数とは、実際に治療のため病院に行った日を指します。
そして、「治療期間」と「実治療日数×2」を比較し、少ない方を通院期間とし、それに、4,200円をかけて(乗じて)、慰謝料を計算します。ただし、限度は、120万円です。
この120万円には治療費や休業損害も含まれますから、治療費や休業損害が多額になっている方は、それだけ、慰謝料に相当する保険金も少なくなってしまいます。
後遺障害慰謝料の計算基準
後遺障害による損害は、逸失利益(後遺障害が残存したことによって将来において労働する能力が低下し、得られる賃金等が減少するであろう部分の補てん)および慰謝料となりまして、自賠責保険においては、以下のように定められています。
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上記図表のとおり、後遺障害は1級~14級があり、それぞれ、右端の「14.4.1」欄に記載されている金額が、自賠責保険における後遺障害の計算基準です。同金額は、前述のとおり、「逸失利益」と「後遺障害慰謝料」を含めた金額となります。
任意保険会社(計算)基準について
任意保険会社(計算)基準とは
任意保険会社基準とは、加害者側の任意保険会社が、各社で定めている計算基準をいいます。ただし、計算基準とはいえ、自賠責保険や裁判所のように明確に定めていないように思います。
といいますのも、そもそも任意保険会社の計算基準というものは一般に公表されておらず、ブラックボックスになっております。
任意保険会社の傷害慰謝料の計算基準
上記のとおり、計算基準は明確ではありません。事案によって様々です。受傷内容、受傷の程度、受傷部位、治療期間、入院の有無、実通院日数、通院頻度等の様々な事情を考慮して計算しているように思います。
これまでの弊所における経験では、自賠責保険の基準と同額、若しくは若干のプラスα程度が多いように見受けられました。
任意保険会社は、被害者に賠償金を支払った後、自賠責保険会社に対して、傷害部分については120万円を限度として、返還を求めることができ(これを求償といいます)、同金額までであれば、任意保険会社の実質的な支払いを免れることができるため、自賠責保険の計算基準よりも高額の賠償金を支払ってしまうと実質負担が発生してしまうからだと予想されます(自腹を切る事になるという意味です)。
しかし、裏を返しますと、治療費や休業損害等が多額になっている場合、この120万円の枠が埋まってしまっており、任意保険会社が求償できないために、かえって自賠責保険の計算式よりも低い金額が提示される例もあります。
任意保険会社の後遺障害慰謝料の計算基準
後遺障害慰謝料についても、計算基準は明確ではありませんが、これまでの経験上、ほとんどの事件において、自賠責保険の計算基準と同額で被害者へ賠償提案をしておりました。
従いまして、任意保険会社基準=自賠責保険基準と考えて頂いて結構です。理由は上記のとおり、全額求償することを重要視しているものと考えます。
裁判所(計算)基準について
裁判所(計算)基準とは
前述のとおり、裁判所は、「一定の目安」として、慰謝料金額を類型化し、その類型化された基準に基づき、ある程度画一的に処理できるように慰謝料の計算式を導入することで、交通事故事件の迅速な解決を図るようにしております。
当然のことですが、この裁判所計算基準は、自賠責保険計算基準や任意保険会社計算基準と比較すると最も高額の基準となります。
そして現在、大阪の交通事故であれば「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準」が、それ以外の地域の交通事故であれば「公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編 損害賠償額算定基準」が、それぞれ指導的役割を果たしております。
裁判所の傷害慰謝料の計算基準
大阪地裁における交通損害賠償の計算基準
通常のケガの場合
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※軽度の神経症状(むちうち症等で他覚所見のない場合等)は2/3されます。
重傷の場合
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※重傷とは、重度の意識障害が相当期間継続した場合、骨折又は臓器損傷の程度が重大であるか多発した場合等、負傷の程度が著しい場合をいいます。
公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編 損害賠償額計算基準
別表Ⅰ
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※重傷の場合は、20%~30%程度増額されることがあります。
別表Ⅱ
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※軽度の神経症状(むちうち症等で他覚所見のない場合等)に適用される計算基準です。
補足
上記表のとおり、裁判所計算基準では治療期間に応じて慰謝料が計算されます。入院と通院がある場合は、横軸の入院と縦軸の通院がクロスする点を慰謝料とします。例えば、1か月入院し、3か月通院した場合、大阪地裁における交通損害賠償の計算基準(通常)では、119万円の慰謝料となります。
この点、自賠責保険のように実通院日数を基に計算する方法と大きく異なります。実通院日数と通院期間の計算については、通院が長期にわたり、かつ、不規則な場合は、実際の通院期間と実通院日数を3.5倍した日数を比較して、少ないほうの日数を基礎として通院期間を計算します。
つまり、大阪地裁における交通損害賠償の計算基準(通常)でみますと1か月の治療期間の場合、27万円の慰謝料となりますが、1か月で5回しか通院されなかった場合、5×3.5=17.5日となり、通院期間1か月よりも少ないため17.5日として計算することになりますので、27万円よりも少額となります。
実通院日数が少ない場合は注意が必要です(なお、公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編 損害賠償額計算基準の別表Ⅱでは、実際の通院期間と実通院日数を3倍した日数を比較して、少ないほうの日数を基礎として通院期間を計算します)。
裁判所の後遺障害慰謝料の計算基準
大阪地裁における交通損害賠償の算定基準
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,370万円 |
第3級 | 1,990万円 |
第4級 | 1,670万円 |
第5級 | 1,400万円 |
第6級 | 1,180万円 |
第7級 | 1,000万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 690万円 |
第10級 | 550万円 |
第11級 | 420万円 |
第12級 | 290万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
公益財団法人日弁連交通事故センター東京支部編 損害賠償額算定基準
第1級 | 2,800万円 |
第2級 | 2,400万円 |
第3級 | 2,000万円 |
第4級 | 1,700万円 |
第5級 | 1,440万円 |
第6級 | 1,220万円 |
第7級 | 1,030万円 |
第8級 | 830万円 |
第9級 | 670万円 |
第10級 | 530万円 |
第11級 | 400万円 |
第12級 | 280万円 |
第13級 | 180万円 |
第14級 | 110万円 |
まとめ
以上のとおり、慰謝料は、裁判所の計算基準によって算出したものが、最も高額になります。しかし、一般の方々が保険会社に対して「裁判所の基準で支払って下さい」と伝えても、保険会社は応じてくれません。
なぜなら、裁判所の基準とは、裁判になった場合に参考とされる基準であるため、保険会社も、「一般の方々では、ご自身で裁判をされるのは大変だろうから、いつかは説得に応じてくれる」という姿勢で交渉に臨むからです。
そのため、保険会社は、自社基準での解決を粘り強く提案し続けます。そこで、弁護士の出番となります。弁護士が被害者の代理人として交渉する場合は、保険会社に対し、「交渉が決裂すれば、裁判を起こされるかもしれない。」というプレッシャーをかけることができます。
そのため、裁判を提起しなくとも、裁判所の計算基準をベースに交渉することが出来ます。これは被害者にとっては、きわめて大きなメリットです(特に弁護士費用特約がある場合は、費用負担なく慰謝料を増額することができますので。)。
したがいまして、適正な計算基準=裁判所の基準で示談するためにも、積極的に弁護士に相談して代理交渉を依頼することが推奨されるのです。