後遺症

体幹骨の変形障害について解説

体幹骨の変形障害について解説

交通事故によって骨折した場合、治療を続けても、骨が元通りにならず、変形したまま残ってしまうことがあります。

このように、骨の変形が残存した場合には、「変形障害」という後遺障害の等級が設けられています。変形障害にもいくつかの種類がありますが、今回の記事では、鎖骨、胸骨、肋骨、肩甲骨、骨盤などの「体幹骨」と呼ばれるものを取り上げたいと思います。

※体幹骨には脊柱も含まれますが、脊柱の変形障害は「脊柱の後遺障害(脊柱の圧迫骨折等)」をご参照ください。

これらの変形は、等級認定基準が抽象的なうえ、認定されたとしても、保険会社から、将来のお仕事における補償を減額するとの反論が提出されがちだからです。

そこで、体幹骨変形のうち、脊柱を除いたものについて、後遺障害の等級認定基準や、将来の補償に関する正確な情報をお伝えしてまいります。

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体幹骨の変形の後遺障害の認定について

まず、体幹骨の変形は、どのような場合に認定されるのかを確認してまいります。後遺障害の等級表上、「鎖骨、胸骨、ろく骨、けんこう骨、又は骨盤骨に著しい変形を残すもの」が、第12級5号として規定されています。

ここにいう「著しい変形」とは、裸体になったときに、変形や欠損が明らかにわかる程度のものをいいます。

したがって、レントゲン写真やCT写真によってはじめてその変形が発見しうる程度のものは「著しい変形」に該当しないこととなります。

以下では、各骨ごとの個別の留意点を簡単にご説明いたします。

鎖骨および肩甲骨における留意点

鎖骨と肩甲骨は、左右に存しているため、それぞれ左右別々の骨として取り扱われることになります。

つまり、左側の鎖骨、肩甲骨の変形と、右側の鎖骨、肩甲骨の変形が存する場合、計4箇所が後遺障害として取り扱われることとなります。

肋骨における留意点

肋骨は第1肋骨から、第12肋骨まで左右対になっており、合計24本存しています。

しかし、後遺障害等級認定においては、肋骨全体を一括して1つの後遺障害として取り扱われるというのが実務上の運用となっています。

したがって、変形した肋骨の本数、程度、部位等に関係せず、肋骨を1本切除した場合も、数本切除した場合も、全体として肋骨の変形障害1つが後遺障害として認定されることとなります。

骨盤骨における留意点

骨盤骨には、仙骨も含むと考えられています。仙骨は、本来脊柱の一部をなしていますが、後遺障害等級表上の「脊柱」の障害は、頚部および体幹の支持機能、保持機能、および、運動機能に着目し、定められたものであり、仙骨はこれらの機能を有していないことから、「脊柱」と同列に評価することはできないとされているのです。

したがって、仙骨の変形は骨盤骨の変形として扱われます。 また、骨盤骨の変形は、交通事故による骨折等の外傷を原因としたものだけでなく、腸骨採取術によるものも存します。

腸骨採取術とは、骨盤を構成する腸骨から採取した骨片を別の骨欠損部の補填や骨癒合促進のために、骨欠損や骨折の存する部位に移植することをいいます。この腸骨採取術に伴い、骨盤骨が変形した場合にも、12級5号が認定されることとなります。

体幹骨変形障害における逸失利益の算定

逸失利益の算定方法について

先にも述べましたが、今回とりあげる体幹骨の変形障害は、第12級5号に該当するものです。そして、後遺障害12級として認定された場合、交通事故によって労働能力が14%失われたと評価されることが通常です。

このような場合、失われた労働能力に対する賠償として、以下のように「逸失利益」という項目を請求することが認められています。

基礎収入(年収/家事従事者の場合は女性の平均賃金)×14%×喪失期間(年数)

もちろん、形式的に基準にあてはめると、実情に合致しないケースもあります。そのようなケースでは、被害者の方に残存した後遺障害の実情に照らし、被害者の年齢、職業、後遺障害の部位、程度、被害者の職業に対する具体的な影響の程度等の事情を総合的に判断して、適切な労働能力の喪失率を考えていくことになるでしょう。

また、喪失期間については、原則として67歳に至るまでの年数を代入しますが、これも具体的な事情によっては調整されることがあります

※詳しくは、「交通事故における逸失利益について解説」をご参照ください。

保険会社の常套句 -逸失利益が生じないとの反論-

他方で、保険会社は、第12級5号のような骨の変形障害によっては、14%もの労働能力の低下など生じない、或いは、そもそも労働能力は低下していない等と主張し、この逸失利益の計上が低額にとどまることがあります。

実際にご相談を受けたもののなかには、このような説明をせずに、低額の慰謝料のみを計上した示談案を提案されているようなケースすら複数ありました。

しかし、個別に内容を検討しても、保険会社の主張が妥当するケースは限定的ですから、注意が必要です。以下では、裁判所の考え方も交えて、この点を詳しく解説してまいります。

※鎖骨の変形障害に関する裁判所の考え方については、瀬戸啓子裁判官「労働能力の喪失の認定について」(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準の2005年版・下巻講演録)を参照しています。

鎖骨変形の労働能力喪失率

鎖骨の機能

体幹骨の変形のなかでも、比較的多く相談を受けるのが、鎖骨の変形障害です。鎖骨の変形障害において、労働能力の喪失率が争われる理由は、鎖骨の機能に由来しますので、まずはこれを確認しておきます。

鎖骨は、肩甲帯を構成する3つの骨(他に、肩甲骨、上腕骨があります。)の1つで、主に、以下の4つの機能があるとされます。

鎖骨の主な機能

  • 肩甲帯の前後運動の支柱となること
  • 筋の起こるところであり、また、着くところとなること
  • 鎖骨下または腋窩動静脈、上腕神経叢の骨性の防御となること
  • 烏口鎖骨靱帯を介して主として僧帽筋の作用を肩甲骨に伝えること

これら機能のうち、④がもっとも重要な機能と考えられています。ところが、僧帽筋を三角筋に十分に縫合しておけば大きな機能障害は起こらないとされています。

そのため、先天的に欠損している場合、鎖骨を全摘出した場合であっても、肩関節の可動性や日常生活動作に重要な支障はないとされています。

鎖骨の変形によっては、労働能力が低下しないという反論は、このような理由に基づくものと考えられます。

鎖骨変形による労働能力の喪失について

もっとも、実際の裁判例においては、鎖骨変形の場合にも労働能力喪失率を認めるものが、むしろ多勢といえます。以下では、どのような場合に労働能力喪失率が認められるのか確認してまいります。

変形それ自体で労働能力が喪失する場合

まず、被害者の方のご職業によっては、変形それ自体によって労働能力の喪失が認められる場合があります。既にご説明しましたとおり、第12級5号のいう「著しい変形障害」とは、裸体となったとき、変形や欠損が明らかにわかる程度のものをいいます。

言い換えれば、鎖骨について外見上明らかに変形し、首から肩にかけて、容姿が健常と異なっていることを意味します。

そうすると、被害者の方がモデルなど、外見や容姿を重視する職業に就いている場合、変形それ自体で労働能力が喪失していると考えることができます。

このような場合には、鎖骨の変形そのものが、労働能力を低下させたと判断して良いと考えられるわけです。  

変形に起因する運動障害で労働能力が喪失する場合

次に、第12級5号に該当する鎖骨変形のみならず、肩関節に程度の軽い可動域制限がある場合にも、労働能力の喪失が認められる場合があります。

本来、肩関節の可動域制限は、第12級6号の「機能障害」という別の等級が用意されています。これは、怪我をしていない方の肩に比べて、肩の可動域角度が4分の3以下に制限されているものをいいます

※詳しくは、「関節機能障害(上肢/下肢) – 後遺障害の種類を解説」の記事をご参照ください

この基準によれば、肩の可動域角度が4分の3以下に至っていない場合には、「機能障害」としては認められませんが、肩関節に運動障害があることは明らかな場合、職種によっては労働能力に影響を与える場合があります。

典型的には、スポーツ選手や、土木建築の職人などが考えられますが、実際の裁判例においては、より広く、肩の運動を伴う職種の肩に対して逸失利益が認められています。

事例1

52歳の清掃員について、左鎖骨の突出が、外観から素人目にも視認可能であり、鎖骨の運動障害及び神経症状がある等を理由として、14%の労働能力喪失を10年間認めた(平成10年3月27日付・大阪地方裁判所の判決)。

事例2

50歳の家事従事者(主婦)について、右鎖骨の奇形に伴って運動障害を残していることを理由として、14%の労働能力喪失を17年間認めた(平成12年7月28日付・東京地方裁判所の判決)。

事例3

57歳の学校給食担当職員について、左肩の鎖骨変形による痛みや動きの制約などのため、従前どおりの仕事をこなすために早朝出勤している等の事情から、14%の労働能力喪失を、12年間認めた(平成13年10月26日付・東京地方裁判所の判決)。

変形による痛みで労働能力が喪失する場合

鎖骨の変形がある場合に、その変形を原因として痛みも同時に残存することがあります。一般的に痛みがある場合には、「神経障害」としての後遺障害が認められ、労働意欲や能率に影響するとして、労働能力の喪失が認められています。

そのため、鎖骨変形によって痛みが残存する場合には、少なくとも痛みが労働能力に影響を与えていると考えることになります。なお、変形による痛みが残存している場合、職種により労働能力への影響に差異を設けるべきではなく、より多くの職種に労働能力の喪失を認めることができると考えられます。

労働能力喪失期間について

鎖骨変形がある場合の労働能力喪失期間について、先にご紹介したような裁判例のとおり、運動障害を理由にして逸失利益を認めるものは、67歳までの喪失を認める傾向にあることが分かります。一方、痛みのみを原因として労働能力の喪失を認めている裁判例では、労働能力喪失期間を10年程度に制限している例が見られます。

これは、同じく痛みなどの神経症状を定める第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」の一部について、労働能力の喪失期間を10年程度としている運用に沿ったものと推測できます。

ただし、痛みが原因で労働能力の喪失を認めているケースであっても、変形という器質的な原因であることを重視して、10年に制限しないという判断がなされているものもあります。

12級13号の神経症状であっても、骨の不整癒合などを理由とするものは10年に制限しないという運用と同様に扱っているものと推測できます。そのため、痛みが発症している原因を詳細に検討することが重要となります。

まとめ

以上みたところによれば、鎖骨の変形障害であっても、①変形そのものによって労働上の支障が出るような職種である場合、②変形によって肩関節に運動制限が生じており、肩関節の運動を要する職種である場合、③変形部に痛みが生じている場合には、それぞれの支障の程度に応じて、労働能力の喪失が認められるということになります。

ですから、保険会社から鎖骨の変形では逸失利益は計上できないとか、減額すべきといった主張がなされても、この3つの事情の有無を慎重に吟味して交渉する必要があるのです。

なお、このように、変形の有無そのものではなく、変形がどのような症状を引き起こしているのか、また、変形がどのように就労に支障を生じさせるのかといった視点から逸失利益を検討する視点は、以後に説明する他の体幹骨変形においても共通します。

肩甲骨変形

肩甲骨の機能

肩甲骨には、多数の筋がこれを包み込むように付着しています。

鎖骨と一体となって胸鎖関節を中心とする運動を行う機能を果たしており、肩関節の可動域を、肩甲骨が胸郭上で位置を変えることによって広げるといった機能も果たしています。

したがって、肩甲骨の変形障害は、肩関節の運動障害を引き起こしていないかを慎重に確認しておく必要があります。

肩甲骨変形の労働能力喪失率

肩甲骨の場合も、鎖骨の場合と同様に、変形の有無よりも、どのような症状によって、就労にどのような影響を及ぼしているのかを明らかにすることが重要となります。

事例

重量のある製品の運搬を伴う肉体労働を中心としている44歳の会社員について、肩甲骨の変形障害を原因として発生している痛み、可動域制限、しびれにより、仕事の範囲が限定される可能性があること、将来の昇進等に際して不利益な取扱を受ける可能性があること等を理由に、10%の労働能力の喪失を、22年間認めた(平成21年2月24日付・大阪地方裁判所の判決)。

胸骨変形

胸骨の機能

胸骨は、肋骨、胸椎とあいまって、胸郭を構成します。胸郭は、心臓等の臓器を保護する機能を有しています。

胸骨変形の場合の労働能力喪失率

胸骨の場合も同様に、胸骨変形によりどのような症状が生じており、就労にどのように影響しているかが、労働能力喪失率の判断において重要となっています。

事例

40歳のスナック経営者について、その後居酒屋をはじめたところ、胸部、腰部の痛みで重いものは持てず、肩こりや手が痺れるといった症状が続いているというケースで、胸骨変形が胸部の痛みの原因となっているとして、脊柱の変形障害と併せて併合第10級を認め、27%の労働能力の喪失を27年間認めた(平成3年5月21日付の大阪地方裁判所の判決)。

肋骨変形

肋骨の機能

肋骨は、胸骨、胸椎と相まって、胸郭を構成し、心臓等の臓器を保護する機能を有しています。

肋骨変形の場合の労働能力喪失率

肋骨の場合も同様に、肋骨変形によりどのような症状が生じており、就労にどのように影響しているかが労働能力喪失率の判断において重要となっています

事例

50歳のアルバイト店員について、左鎖骨変形および肋骨変形の後遺障害の認定を受け、左胸郭の変形のために、左手の動作や呼吸に際して痛みを伴い、円滑な動作および力を要する作業に困難を伴うとして、鎖骨変形との併合第11級として、20%の労働能力の喪失を、17年間認めた(平成13年5月18日付の横浜地方裁判所の判決)。

骨盤骨変形

骨盤骨の機能

骨盤は左右の寛骨(下肢の付け根にあって下肢帯をなす骨格)と脊柱下端部が作る環状骨格で、脊柱が受ける荷重を2分し、左右の大腿骨へ伝える機能を有しています。

また、骨盤の上部は腹部内臓の受け皿となり、暴行、直腸、子宮などの骨盤内臓を納めるという機能も有しています。女性の場合、骨盤は産道として機能します。

一方、男性の場合、骨盤は運動機能に有利となるように、左右の股関節の距離が狭くなります。

認定基準における留意点においても触れましたが、骨盤骨変形には、①交通事故により骨折したことが原因で変形が生じた場合のほか、②腸骨採取術によって生ずる変形についても後遺障害として扱われます。

骨折が原因で変形が生じた場合

交通事故により骨盤骨を骨折したケースで後遺障害12級5号が認められる場合、労働能力の喪失を認め、労働能力喪失率表通りの14%を認定する裁判例がほとんどです。

もっとも、変形による支障が少ないとして、労働能力喪失率を下げて判断する裁判例もあり、他の体幹骨変形障害と同様に、具体的な支障を主張していくことが重要です。

腸骨採取術により変形が生じた場合

腸骨採取術によって骨盤骨が変形した場合、骨折のケースとは逆に、労働能力の喪失を認める裁判例は非常に少ない傾向にあります。

これは、腸骨採取があくまで医療行為の一環として、本来身体に影響が残らないように配慮して行われるものであるからと考えられます。

この点、医学界からは、「術後半年から1年にわたって大腿皮神経支配領域に感覚異常と共に採骨部痛を訴えられることもたまにあるが、時間の経過と共に軽快し、いつしか何らの愁訴とならなくなるのが大部分である」とされたうえ、「腸骨採取後の骨盤骨変形については、健常部への侵襲という点を考慮しても、14級に引き下げる」との提言がされる等しているところです(平林冽医師「労災補償障害等級認定の問題点-脊柱及び体幹の障害-」日本災害医学会会誌)。

これは一見すると、第12級に位置付けるほどではないというネガティブな評価にもみえますが、一定期間、神経症状が生ずることを示唆するものであるともいえます。 なお、腸骨採取術については、健常部への侵襲があり、外表の変形、骨欠損部からのヘルニアや疼痛があることは確かです。

そのため、裁判所においては、腸骨採取術により痛みが生じ、それによる労働能力に対する影響を立証できれば、労働能力の喪失を、1~2年を目安として認定できると考えられています。

また、仮に、労働能力の喪失が認められない場合であっても、腸骨採取術は健常部への侵襲を伴うものですから、慰謝料の加算事情として、後遺障害慰謝料を増額するという手法も考えられうるとされています。

※腸骨採取術に伴う骨盤骨の変形障害に関する裁判所の考え方については、片岡武裁判官「労働能力喪失率の認定について」(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準の2004年版・下巻講演録)を参照しています。

著しい変形が複数個所存する場合の関係

1回の交通事故によって複数箇所の体幹骨を骨折等し、12級5号のいう「著しい変形障害」が残存する場合があります。

このような場合、複数箇所の体幹骨の変形障害を11級相当として扱うこととなります。もっとも、「著しい変形障害」が2箇所の場合、3箇所の場合と増えていった場合であっても、すべて11級相当として扱われる点に注意が必要です。

最後に

これまでみてきたように、体幹骨の変形障害が後遺障害として認定される要件には、多くの留意点が存します。

加えて、体幹骨の変形が後遺障害として認定された場合であっても、労働能力の喪失について、保険会社から争われることが予想されます。

これらの問題に適切に対応するためには専門的な知識が必要となることがお分かりいただけたと思います。

そのため、体幹骨の変形が残存してしまった場合、早期に交通事故に精通した弁護士にご相談、ご依頼されることを推奨いたします。

今回の記事が、体幹骨の変形障害が残ってしまった方々にとって、弁護士へ相談し、良い解決を得られる一助となりましたら幸いです。

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