後遺症

関節機能障害(上肢/下肢) – 後遺障害の種類を解説

関節機能障害(上肢下肢) - 後遺障害の種類を解説

交通事故による怪我のなかには、関節が曲がらなくなったり、関節内に人工物を入れなければならないものがあります。リハビリを続けて改善する例もありますが、交通事故以前よりも関節が動く範囲が限定的な状態(関節に「可動域制限」が残った状態と表現されます。)が残ることもあります。

このような関節の「可動域制限」が残った場合のほか、人工関節・人工骨頭など一部の人工物を用いざるを得なくなった場合には、「関節機能障害」として自賠責から後遺障害の等級認定が得られる可能性があります。

ただ、ひとえに関節が曲がらなくなったといっても人によって程度差があります。ご自身に残存した症状が後遺障害のどの等級として認定されるのかについて、自賠責保険が四肢の関節に対して等級を設けている以下の関節を例に、交通事故専門の弁護士が詳しくご説明いたします。

上肢の三大関節:肩関節、肘関節、手関節
下肢の三大関節:股関節、膝関節、足関節

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関節機能障害の認定について

関節機能障害は、関節に可動域制限が生じていることを要件としているものがほとんどです。そのため、関節の可動域がどれくらいなのかを測定することが必要となってきます。

そこで、関節ごとにどのような関節の動きを測定すべきかといったことや、測定の要領についてご説明いたします。

可動域角度の測定要領

上肢下肢ともに、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会により決定された「関節可動域表示ならびに測定方法」における「関節可動域の測定要領」に基づいて、医師が関節の可動域を測定していきます。

要領を守ったうえでの測定が必要ですから、要領を把握せずにご自身で測定されても参考にはなりません。測定は主治医の方にお任せしましょう。

他動と自動

可動域を測る際の関節の動かし方には自動、他動の2種類あります。自動とは、本人が筋肉を作用させて自力で関節を動かした場合をいい、他動とは、他人の手や器械の補助などの外的な力によって関節を動かした場合をいいます。

関節の機能障害を認定する際に用いられるのは、原則として他動によるものになります。ただし、例外的に他動による測定値を用いることが適切ではない場合に、自動による可動域を用いる場合があります。

例えば、関節に麻痺があり他動では動かすことができるものの、自動では動かないといった症状が出ている場合や、自動で動かそうとすると激しい痛みを感じ、事実上自動では動かすことができないと医学的に判断される場合です。

なお、いずれの場合であっても自動と他動は両方測定していただく必要がありますので、ご注意ください。

機能障害の認定方法

関節機能障害の対象となる上肢・下肢の関節は、肩や膝など、すべて左右にそれぞれ1つずつあるものになります。

そのため、可動域制限が生じている側(怪我をした側です。以下、「患側」といいます。)の関節の可動域角度と、生じていない側(怪我をしていない側です。以下、「健側」といいます。)の関節の可動域角度を測定し、両者を比較するというのが原則的な機能障害の認定方法となります。

ただし、健側の関節が存在しないケースもあります。例えば、事故以前から既に片側の関節に何らかの障害が生じていた場合、事故によって左右ともに怪我をするなどして、両側の関節に可動域制限が生じている場合です。

このような場合には、角度の比較対象が平均的な運動領域とされる参考可動域角度となります。なお、参考可動域角度は以下の表の通りとなります。

上肢三大関節における参考可動域角度

関節

運動

参考可動域角度

肩関節

屈曲

180°

伸展

50°

外転

180°

内転

0°

外旋

60°

内旋

80°

肘関節

屈曲

145°

伸展

5°

手関節

屈曲

90°

伸展

70°

橈屈

25°

尺屈

55°


下肢三大関節における参考可動域角度

関節

運動

参考可動域角度

股関節

屈曲

125°

伸展

15°

外転

45°

内転

20°

外旋

45°

内線

45°

膝関節

屈曲

130°

伸展

0°

足関節

屈曲

45°

伸展

20°

測定すべき関節の動き

各関節の動作には、日常生活上よく使う動作と、それほど使わない動作があります。そのため、日常の動作にとって最も重要な動きを「主要運動」とし、主要運動よりも日常生活において重要度が劣るものを「参考運動」として定義しています。

基本的には、後遺障害の認定の際、通常は主要運動をもとに判断することとなります。なお、同一面上の運動は合算した数値で判断しますので、外転と内転、屈曲と伸展、外旋と内旋はそれぞれの合計を可動域として評価します。

ただし例外的に、肩に関しては屈曲が主要運動、伸展が参考運動となっているため、別に測定します。

上肢の主要運動、参考運動

上肢である肩、肘、手首の主要運動・参考運動は、以下の表の通りです。肩に関してのみ主要運動が2種類設けられています。 

部位

主要運動

参考運動

肩関節

屈曲、外転+内転

伸展、外旋+内旋

肘関節

屈曲+伸展

手関節

屈曲+伸展

橈屈+尺屈

下肢の主要運動・参考運動

下肢である股関節、膝関節、足関節の主要運動・参考運動は、以下の表の通りです。股関節に関してのみ主要運動が2種類設けられています。

部位

主要運動

参考運動

股関節

屈曲+伸展、外転+内転

外旋+内旋

膝関節

屈曲+伸展

足関節

屈曲+伸展

上肢・下肢の三大関節における慰謝料額

冒頭にも述べましたが、自賠責保険では上肢と下肢の三大関節(肩関節、肘関節、手関節、および、股関節、膝関節、足関節)に重い等級を設けています。

まずは用意されている等級と、認定された場合の慰謝料額の目安をご案内いたします。なお実際に認定された場合には、慰謝料のほかにも逸失利益という項目において高額の賠償請求が可能な場合があります。

※逸失利益に関する詳細は、『交通事故における逸失利益について解説』をご覧ください。

等級

要件

慰謝料額(※)

1級

両上肢(両下肢)の用を全廃したもの

2,800万円

5級

1上肢(1下肢)の用を全廃したもの

1,440万円

6級

1上肢(1下肢)の3大関節中の2関節の用を廃したもの

1,220万円

8級

1上肢(1下肢)の3大関節中の1関節の用を廃したもの

830万円

10級

1上肢(1下肢)の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの

530万円

12級

1上肢(1下肢)の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの

280万円

※大阪地方裁判所の基準です。他の裁判所の管轄地では、若干異なる場合があります。

後遺障害等級の認定基準

以上の表から、「機能に障害を残すもの」、「機能に著しい障害を残すもの」、「用を廃したもの」、「用を全廃したもの」の4つの等級認定基準があることがお分かりいただけたことでしょう。

次に、これらの基準がどのような症状が残った場合を指すのか、具体的にご説明いたします。

関節の機能に障害を残すもの

機能障害のうち、もっとも低い等級は「関節の機能に障害を残すもの(第12級)」です。

「関節の機能に障害を残すもの」とは、患側の関節可動域角度が、健側の関節可動域角度の4分の3以下になっている場合に該当します。

前述のとおり、可動域角度に関して主要運動の角度を用いて判断することになります。主要運動が複数ある関節の場合、一つの主要運動について2分の1以下に制限されていれば、要件に該当することとなります。

なお、主要運動の可動域につき、患側の関節可動域角度が、健側の関節可動域角度の4分の3をわずかに上回る場合は、参考運動の可動域を確認して、これが4分の3以下となっていれば、「関節の機能に障害を残すもの」に該当すると評価します。ここでいう「わずかに」とは5度を指します。

「関節の機能に障害を残すもの」の具体例

以下、具体例に基づいて「関節の機能に障害を残すもの」に該当するかどうかを検討してみましょう。

股関節の運動

患側

健側

比率

屈曲+伸展(主)

115°

140°

82%

外転+内転(主)

50°

65°

76%

外旋+内旋(参)

65°

90°

72%


股関節の主要運動は「屈曲+伸展」と「外転+内転」の2種類です。いずれかが健側の4分の3以下(つまり75%以下)になっていれば「関節の機能に障害を残すもの」に該当しますが、上の例では、いずれの運動も可動域角度は健側の75%を超えています。

そのため、一見すると後遺障害には認定されないのではないかとも思えますが、主要運動のうち「外転+内転」に着目すると、患側の可動域角度である「50°」は、健側の可動域角度である「65°」の4分の3を「わずかに」上回っていることが分かります。

確認方法の表記

■65°の75%を算出
「65°×0.75=48.75°」

■得られた角度に5°(「わずかに」の基準値)を加算
「48.75°+5°=53.75°」

■65°の75%を「わずかに」上回る数値よりも、患側の角度が小さいことを確認
「53.75° > 50°」

=患側の可動域角度は健側の75%以下ではないが、健側の75%以下を「わずかに」上回る状態に該当する。

このような場合には、改めて参考運動である「外旋+内旋」の可動域角度が、健側の4分の3以下になっていれば「関節の機能に障害を残すもの」に該当することになります。上の例では「外旋+内旋」は72%ですから、この要件を満たしています。

したがって、主要運動のみを確認すると後遺障害には該当しないようにみえるケースではありますが、参考運動を考慮して第12級が認定されることになるのです。

参考運動による機能障害の認定に注意

参考運動を以て等級を評価するルールは、ときに見落とされていることがあるので特に注意が必要です。

(弊所でも、セカンドオピニオンにいらっしゃった方が、このルールを見落とされて等級認定を受けそこなっていた例がありました。自賠責保険が見落としたのか、別の理由で認定をしなかったのかは定かではありませんが、申請を担当した弁護士は見落としていたようです。)

関節の機能に著しい障害を残すもの

次に、「著しい障害を残すもの」という要件について解説します。

この要件には大きく分けて、可動域に関する評価の場合と、人工関節等を治療に用いた場合の2つが想定されています。

可動域に関する評価

患側の関節可動域角度が健側の関節可動域角度の2分の1以下になっている場合には、「著しい障害を残すもの」に該当します。

また「関節の機能に障害を残すもの」と同様に、可動域角度に関して主要運動の角度を用いて判断することになります。主要運動が複数ある関節の場合、一つの主要運動について2分の1以下に制限されていれば、要件に該当するという点も同様です。

そして主要運動につき、患側の関節可動域角度が健側の関節可動域角度の2分の1をわずかに上回る場合、当該関節の参考運動が2分の1以下であれば「著しい障害を残すもの」に該当すると評価されます。

ここでいう「わずかに」とは、原則として5度です。ただし「関節機能に障害を残すもの」の要件とは異なり、以下のものについては「わずかに」が10度とされています。実務上も見落とされやすいため注意が必要です。

肩関節

屈曲、外転

手関節

屈曲+伸展

股関節

屈曲+伸展

人工関節、人工骨頭を用いた場合

人工関節や人工骨頭を関節に挿入・置換した場合にも「関節の機能に障害を残すもの」に該当します。

この場合、治療後の関節の可動域角度に関わりなく認定を受けることができます(人工関節、人工骨頭を挿入し、かつ可動域制限が生じている場合については、後述します)。

関節の用を廃したもの

次に、「関節の用を廃したもの」という要件について解説いたします。この要件は、具体的に次に述べるような3つの場合が想定されています。

関節の用を廃したもの

  • 関節が完全強直またはこれに近いもの
  • 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの
  • 人工関節・人工骨頭を挿入、置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合

以下、それぞれについて詳細に解説いたします。

関節が完全強直またはこれに近いもの

「完全強直」とは、関節の可動域が全くないものをいいます。「完全強直に近いもの」とは、原則として、患側の関節可動域角度が健側の関節可動域角度の10%程度以下となっているものおよび、可動域角度が10度以下となっている場合をいいます。

なお「10%程度」という表現は、健側の関節可動域角度の10%に相当する角度を5度単位で切り上げた角度をいいます。

例えば、健側の関節可動域角度が180度である場合、その10%は18度になります。ここで、18度を5度単位で切り上げた場合、20度になり、患側の関節可動域角度が20度以下に制限されていれば、「完全剛直に近いもの」に該当するという評価になります。

なお、主要運動が複数ある関節の場合、すべての主要運動が完全強直またはこれに近いものとなった場合に「用を廃したもの」に該当することになります。「関節の機能に障害を残すもの」や、「関節の機能に著しい障害を残すもの」のように、いずれか1つの主要運動が満たすのみでは該当しませんので、ご注意ください。

また例外的に、肩に関しては肩甲上腕関節(肩甲骨と上腕骨の間の関節をいいます。)が癒合して骨性強直していることがレントゲン等で確認できる場合にも、強直と評価を受けます。

肩に関しては、肩甲上腕関節が強直しても肩甲骨の動きによって、ある程度屈曲や外転が可能な場合があります。そのため、可動域角度の測定値を見るだけでは完全強直に近いものの範囲を超えることもあるため、このような例外が設けられました。

関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態にあるもの

完全弛緩性麻痺とは、他動では可動するものの、自動では健側の可動域の10%程度以下となったものをいいます。

10%程度以下の解釈に関しては、先に説明した「完全強直」の場合と同様です。

人工関節・人工骨頭を挿入、置換した関節のうち、その可動域が健側の可動域角度の2分の1以下に制限されている場合

人工関節や人工骨頭を挿入・置換した事実があれば、先に述べた「関節の機能に著しい障害を残すもの」との評価を受けますが、さらに、人工関節や人工骨頭を挿入・置換した側の可動域角度が、健側の可動域角度の2分の1以下となっている場合には、より症状の重い「用を廃したもの」と評価されます。

なお複数の主要運動がある関節に関して、一つの主要運動につき2分の1以下に制限されていれば認定できます。その点で、完全強直の場合とは異なります。

また、将来人工関節や人工骨頭を挿入する必要があるというだけでは認めらないことには注意が必要です。

用を全廃したもの

最後に、最も重篤な「用を全廃したもの」という要件について説明いたします。この要件は、上肢と下肢に分けてご説明します。

「用を全廃したもの」の上肢

上肢については3大関節すべて(つまり、肩関節、肘関節、手関節)が強直し、かつ、手指の全部の用を廃した場合に、「用を全廃したもの」にあたります。

ここでいう強直は、前述した「完全強直」または「完全強直に近いもの」と同じです。また、上腕神経叢の完全麻痺についても、これに含まれることになります。

「用を全廃したもの」の下肢

下肢についても3大関節すべて(つまり、股関節、膝関節、足関節)が強直していることが必要ですが、上肢と異なり、足指全部が強直したか否かは要件とされていません(逆にいえば、足指全部が強直した場合であっても、「用を全廃したもの」として扱われるに過ぎません。)。

特殊な機能障害

動揺関節

動揺関節とは、靱帯が損傷するなどの影響で関節が本来曲がらない方向に曲がるようになり、安定性を欠くような状態になったため、サポーター等の固定具を装着が必要な状態になることをいいます。

動揺関節の場合、他動、自動に関わりなく、以下の基準に該当すれば後遺障害として等級認定されることがあります。

ただし、ストレスX線撮影法(器具等で関節に圧力をかけ、靱帯の損傷によって生じる骨のズレをあえて生じさせた状態でレントゲンを撮ることをいいます。)などの画像検査や、前方引出しテスト、後方引出しテスト、ラックマンテスト等の徒手的検査などによって、明確に関節が動揺していることを裏付けるような所見が必要となります。

まず上肢、下肢について、それぞれ後遺障害の等級が異なるため表でご説明します。

上肢

等級

要件

10級

常に硬性補装具を必要とするもの

12級

時々硬性補装具を必要とするもの

下肢

等級

要件

8級

常に硬性補装具を必要とするもの

10級

時々硬性補装具を必要とするもの

12級

重激な労働等の際以外には、硬性補装具を必要としないもの

習慣性脱臼について

関節が習慣的に脱臼するようになった場合にも、関節の機能障害が生じているとして後遺障害の認定を受ける場合があります。

上肢及び下肢について習慣性脱臼の症状がみられるようになった場合には、12級相当として後遺障害が認定されることになります。

また下肢については、弾発膝(膝の曲げ伸ばしで引っかかる感じが生じるような症状)となった場合にも12級相当として後遺障害が認定されることになります。

前腕の回外、回内について

前腕の主要運動の一つとして、回内、回外(ドアタブを開ける際に手首を回転させる動きです)が制限されている場合も、関節の機能障害に準ずるものとして扱われます。

回内、回外の機能障害の認定にあたっては、患側の可動域が健側の可動域の4分の1以下に制限されているものを、著しい機能障害に準じて10級相当と、2分の1以下に制限されているものを機能障害に準じて12級相当と認定することになります。

器質的変化があることが要件

これまで関節の可動域制限等について説明いたしましたが、機械的に可動域角度を測定して左右差を比較する等のみで後遺障害が認定されるものではありません。

関節部分の骨折を治療したものの、最終的に癒合(折れたり、割れて傷ついた骨が元通りにくっつくこと)がうまくいかなかった場合や、関節周辺組織の変性により、関節が動きにくくなった場合等、負傷した関節に器質的変化(外的な力が加わったことにより、元の状態に戻らないような変化が関節に生じたこと)があることも要件となります。

器質的な損傷がなければ将来にわたり障害が残るとは考えにくいためで、MRI等の検査で可動域制限の原因を明確にしておくことが必要です。

最後に

以上、解説いたしましたように、後遺障害のうち、関節の機能障害は、上肢・下肢に限ってみても、認定される要件及び等級は多岐にわたり複雑です。

最善の治療を尽くしても、負傷した関節が交通事故以前に比べて不自由になった等の症状が残った場合、適切な後遺障害の認定を受けて、加害者から適正な損害賠償を受ける必要があります。

交通事故や後遺障害に精通した弁護士に早めにご相談いただくことをお勧めいたします。

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