交通事故における損益相殺について解説
損害賠償金額を減額調整する方法として「損益相殺」と「過失相殺」があります。この記事では、そのうち「損益相殺」に関して、交通事故の専門家である弁護士の視点から詳しく解説します。
もう一方の「過失割合」についての詳しい解説は、「交通事故の過失割合・過失相殺を解説」をご参照ください。
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この記事の目次
損益相殺とは
損益相殺とは、交通事故によって損害を受けた被害者が、その事故によって損害以上の利益を受けた場合に、賠償額からその利益分を控除することをいいます。
例えば、自賠責保険と労災から同時に保険金の支払いを受けた場合や、保険金を受け取り、かつ加害者に損害賠償額の全部を賠償してもらった場合などは、賠償額の二重取りになってしまうため、被害者が必要以上の利益を得ていると判断されます。
このような不公平な事態を避けるために、損害賠償額から利益を控除する仕組みが「損益相殺」です。
損益相殺によって減額されるもの
死亡後の生活費相当額
交通事故により被害者が死亡した場合、「死亡したことによって、本来支出するはずだった生活費が必要なくなった」という消極的利益を得たと捉えることもできます。よって、死亡後の生活費相当額を控除した損害額を受け取ることになります。
各種社会保険給付金
給付が確定した国民健康保険法、健康保険法、労災保険法、厚生年金保険法または国民年金法などに基づく各種社会保険給付金の相当額は、損害賠償金から控除されます。
所得補償保険契約に基づいて支払われた保険金
所得補償保険(被保険者が怪我などで働けなくなった場合、本来得られるはずだった所得を補填するために支払われる保険)に加入している者が、障害を受けて就業不能になったため、当該所得補償契約に基づく保険金を受け取った場合には、保険金相当額を休業損害の賠償額から控除されます。
損益相殺によって減額されないもの
税金
税法上は交通事故によって発生する損害賠償金の受領は非課税所得とされています。しかし、損害賠償額から租税相当額を控除しないというのが判例です(東京高判昭和62年5月21日交民20巻3号588頁,東京地判昭和61年8月29日交民19巻4号1200頁)。
香典や見舞金
加害者が支払う香典や見舞金は関係者の被害感情を和らげるためのものであり、社会通念上の金額の範囲内であれば、損害額から控除しないのが判例です(神戸地判平成20年11月21日交民41巻6号1459頁など)。
生命保険金
生命保険契約に基づく生命保険金は、払込をした生命保険料の対価としての性質を有するものであり、交通事故とは関係なく被保険者の死亡という事実に基づいて支払われるため控除されません。
特別支給金
労災保険上の特別支給金等は、災害補償を目的とする保険給付とは異なり、労働者福祉事業の一環として行われるものであることなどを理由として、損害額から控除しないとするのが一般的です。
最後に
以上のような、損益相殺によって減額されるもの、されないものの種類は、交通事故に巻き込まれた時の基礎知識として知っておいて損はありません。また、損益相殺は損害賠償において重要な考え方ではありますが、実は明文化された規定がない概念でもあります。
判断が難しい例として、事故の怪我や後遺症によって、自宅を改装したりする場合があげられます。たとえば、自宅の古い和式トイレが事故による後遺症で利用できなくなり、洋式トイレに改装した場合、ウォシュレット等の機能が新たに追加された、同居している家族が改装された新しいトイレを利用することができるようになった等、事故による損害とは別に利益を得たと考えられそうな要素もあります。
そのため、損益相殺の考え方から改装費の一部を被害者が負担しなければならない可能性がありますが、明確に決まっているものではないため、個別の事件のなかで具体的に判断せざるをえません。損益相殺によって減額されるかどうかわからないものがある場合は、お気兼ねなく弁護士法人いろはにご相談ください。