損害賠償

休業損害証明書の書き方と計算方法

休業損害証明書の書き方と計算方法

交通事故に遭って怪我をした場合、怪我の程度によっては仕事を休まざるを得なくなることがあります。

交通事故による怪我が原因で仕事を休むと収入が減少することになりますが、休業損害として加害者に賠償を求めることができます。

この記事では、休業損害を加害者に請求するのに必要な「休業損害証明書」の書き方や、休業損害の計算方法などについて解説します。

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休業損害とは

休業損害とは、交通事故による怪我が完治するか、症状固定(これ以上、治療を続けても症状が良くも悪くもならない状態のこと)する時期までの間に、怪我が原因で仕事を休んだことによって得ることができなかった収入のことをいいます。

休業損害は、仕事を休んだ日数のうち、「怪我により仕事を休むことが相当と考えられる日数」に「交通事故前の収入を基に算出した被害者の一日あたりの収入」を乗じて算出することが一般的です。 

症状固定に関する詳しい解説は「症状固定による治療費の打ち切りについて解説」をご参照ください。

休んだ日数の全部が損害?

仕事を休んだ期間すべての収入分について、休業損害として加害者に賠償を求めることができるわけではありません。

加害者が責任を負うべき休業期間は、前述の通り原則として現実に休業した期間です。

しかし症状の内容や程度や治療経過等からみて、「実際に仕事を休んだとしても、仕事をすることが可能であったと考えられる期間」については、現実に休業していても賠償の対象にならなかったり、一定の割合に賠償額を制限されたりすることもあります。

これは、事故直後は完全に仕事を休む必要があったとしても、時間の経過ととも少しずつ仕事ができる状態になっていく場合には、これに比例して休業損害も一定の割合に制限されると考えられているからです。

必要以上に休みすぎると、その休業期間の収入が得られないばかりか、加害者からの賠償も得られないことになりかねません。無理は禁物ですが、怪我の部位や状態から仕事は可能であると考えられる場合は、仕事への復帰も検討することが大切です。

休業損害の請求方法

以下では最も一般的な、「給与所得者が任意保険会社に対して休業損害を請求する際の手続き」について解説いたします。

休業損害証明書を取得する

給与所得者である被害者については、保険会社から「休業損害証明書」を渡されることが一般的です。

休業損害証明書とは、交通事故による怪我で、被害者がいつ、どれだけ休業したのか、基礎収入はいくらか、減収はいくらか等を記載する書類で、勤務先に記載してもらうものです。

勤務先に記入してもらった後、前年の源泉徴収票等の資料を添えて保険会社に提出し、休業損害を請求する流れになります。

休業損害証明書の書き方

休業損害証明書は、勤務先が記載するものなので、被害者自身が書くことはありませんが、どのような記載が必要なのか気になるところですので解説いたします。

まず被害者が休んだ期間を特定し、そのうち欠勤、有給休暇、遅刻早退等の区別を記載します。

次に、月ごとに何日に欠勤等をしたのかを記します。さらに、その欠勤等した日の給与が支給されたのか支給しなかったのかを記載します。

そのうえで、交通事故による休業がなかった直近3か月間の給与額を記載します。ここに記載される給与額は手取ではなく、社会保険料や所得税を控除する前のものとなります。

その他、給与の締切日や所定勤務時間、給与の算定基礎(月給、日給、時給)について記載し、社会保険(労災保険、健康保険等)から休業補償給付や傷病手当金の給付を受けたか否かについて記載します。

最後に、勤務先が休業損害証明書に記載したことを証明するために、会社の印鑑を押して完成となります。

給与所得者以外の場合

給与所得者以外の方については、休業損害証明書のような所定の書式はありません。確定申告書等の自らの収入を証明できる書類を用意し、自ら計算して加害者側に請求することになります。

任意保険会社に請求する場合、保険会社に対して必要資料を送り、資料を基に保険会社が休業損害額を計算して示談提示をしてくることが多いでしょう。

自らが計算する手間は省けますが、示談提示の金額が妥当かどうか、専門家である弁護士等に相談して慎重に検討する必要があるでしょう。

休業損害の計算方法

給与所得者の場合

給与所得者とは、会社等に雇用されて労働の対価として給与を得ている方のことです。アルバイトの方も給与所得者となります。給与所得者は、怪我によって仕事を休んだことによる、現実の収入減を休業損害として捉えます。

基礎収入については、一般的に事故前の3か月間の平均収入を用いて計算します。なお、休日を含む一定期間の平均日額を基礎収入とし、これに休日を含む休業期間を乗じる計算方法と、休日を含まない実労働日一日あたりの平均額を基礎収入とし、実際に休業した日数を乗じる方法があります。

前者は継続して完全に休業する場合に、後者は就労しながら一定の頻度で通院を行っているような場合に、より正確に損害を算出できると考えられます。

給与所得者の休業損害における注意点

成果に応じた歩合給等の理由で、月ごとの給与額が大きく変動するような場合は、より長期間の平均収入を用いて計算することもあります。休業中に昇給や昇格があった後は、その収入を基礎として計算します。

また、会社によっては、従業員の収入減を避けるために、有給休暇を欠勤にあてる場合もあります。その場合、現実の収入減がないことになりますが、実は有給休暇を利用したとしても、休業した期間について休業損害と考えます。

交通事故により休業しなければ、自分のために自由に使用できる有給休暇を、怪我によって欠勤せざるを得ない日に充てたという事情があるからです。

事業所得者の場合

事業所得者とは個人名で事業を営んでいる方たちのことで、いわゆる自営業者のことです。事業所得者についても、交通事故による怪我が原因で休業したことにより、現実の収入減があった場合に休業損害が認められます。

基礎収入は、前年度の確定申告書を基に算出することになります。なお青色申告控除がされている場合は、同控除額を引く前の金額を基礎として算出します。

年度間で所得に大きな変動がある場合や、前年度の特殊な事情で所得が例年に比べて低い場合等、前年度の金額で算定するのが不適切だと考えられる場合は、事故前数年分を参考に、平均額を採用することもあります。

事業所得者の休業損害における注意点

確定申告をまったく行っていない場合は、実際には相当の収入があったと認められれば、賃金センサスの平均賃金額などを参考に適宜基礎収入額を認定することもありますが、やはり、適切な申告をしておくことが大切であることに変わりありません。

なお、休業中であっても、事務所の家賃や従業員の給与等の固定経費の支出が必要になると思います。これらの経費は、事業の維持・存続のために休業中も必要やむを得ないものについては、相当性がある部分については損害として認められます。

また、休業した事業所得者の代わりに、新たに人を雇って、費用を支出した場合は、それに要した必要かつ妥当な額が休業損害として認められることもあります。

会社役員の場合

役員報酬の定め方は、企業によって様々だと思いますが、一般的に役員報酬は、労務を提供した対価として支払われる部分と、会社の経営幹部として会社の利益配当の実質を持つ部分とがあるといわれています。

休業損害として認められるのは労務提供の対価部分についてであり、利益配当の実質をもつ部分は認められにくい傾向があります。実際の報酬の体系に即して、減収の内容を検討し、適切に請求していく必要があります。

家事従事者の場合

家事従事者とは、性別・年齢を問わず、現実に家族のために家事労働に従事する者をいいます。いわゆる主婦・主夫が家事従事者にあたります。

実際には収入はないので「減収」もないと思われますが、家事労働も本来であれば、同じ仕事を家族以外の人に頼めば一定の報酬の支払いが必要となるはずですので、休業損害が認められます。

家事従事者への休業損害額は、一般的に「賃金センサス」を基礎として計算することになります。

賃金センサスとは

賃金センサスとは、日本国民の平均賃金を性別や年齢、学歴などの指標により統計化した厚生労働省の賃金構造基本統計調査のことで、毎年、産業、年齢、性別、学歴、企業規模等の別や、これらを総合した数値が発表されています。

家事従事者の場合、このうち、女性労働者の平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計の全年齢平均賃金または年齢別平均賃金)を算定の基礎として用いることになります。

平成29年の賃金センサスによると、377万8,200円とされ、これを365日で割ると基礎収入額は一日1万351円となります。

男性の家事従事者の場合

なお、男性の家事従事者に対しても、基礎収入額は女性センサスの値を参照して認定されることになります。

子供夫婦と同居する親などの場合には、現実に分担している家事労働の内容や従事できる労務の程度を考慮して、一定程度、減額した金額を基礎収入額とすることもあります。

パートや内職等を行っている兼業主婦については、現実の収入額と賃金センサスの平均賃金額のずれか高い方を基礎として算出することが多いです。

無職の場合

家事従事者ではない無職者の場合は、現実に収入が減少しているわけではありませんので、休業損害は原則として認められません。

ただし治療が長期にわたり、治療期間中に就職していた蓋然性があるときは、休業損害が認められる場合もあります。

学生や生徒の場合も、原則として休業損害は認められませんが、アルバイト等の収入があれば減収分について認められます。

治療が長期にわたり、学校の卒業や就職の時期が遅れてしまった場合は、予定どおりに就職すれば得られたはずの給与額が損害として認められることになります。

この場合の基礎収入額は、内定先の給与額が明確に推定できるような場合はその額によりますが、不明確な場合は学歴別の初任給平均値を検討することになるでしょう。

まとめ

以上、休業損害の算定方法や請求の方法について解説してきましたが、適切に休業損害の計算をするためには、検討すべき項目は多岐にわたることがおわかりいただけたと思います。

休業損害として認められる適切な範囲や金額について、知識がないまま、保険会社の提示するままに示談すると、本来得るべき賠償を受けられない可能性もあります。

休業損害の請求にあたっては、交通事故の経験が豊富な弁護士に相談することをお勧めいたします。

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