子どもが交通事故に遭った場合の損害賠償
不幸にもお子様が交通事故の被害者になってしまった場合、事故に遭ったお子様自身が辛い思いをされるのは当然のことですが、ご両親のご負担、ご心労も察するに余りあるものです。
子どもが遭遇する交通事故は、歩行中または自転車運転中によるものが多く、ケガが重症である例も少なくありません。
そのため、後遺障害が残存してしまうのではないか、将来の仕事に影響が出るのではないかなど、様々な不安がよぎることでしょう。
今回の記事では、交通事故事件を数多く扱ってきた弁護士が、損害賠償の場面におけるお子様に特有の問題点を中心に解説します。
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この記事の目次
子どもの事故に対する賠償① ~慰謝料~
被害者が請求できる慰謝料の種類
慰謝料とは、交通事故等の加害行為により被った被害者の精神的苦痛に対する賠償のことをいいます。
ひとえに慰謝料といっても、被害者が精神的苦痛を感じる場面は大きく分けてもいくつかあり、それに応じて慰謝料にも種類があります。
まずは慰謝料の種類ごとに説明し、その中で、被害者が子どもであるということが影響する点について触れたいと思います。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料とは、交通事故によりケガを負って痛い思いをしたこと、通院や入院に時間を要したことで本来自由に使える時間を制限されてしまったこと等によって生じた精神的苦痛に対する賠償を意味します。
(「入通院慰謝料」などと表記されてはいますが、入通院に限らず、治療期間中の精神的な苦痛を広く含んで算定されるものです。)
裁判所は、入通院慰謝料の金額を入院期間や通院期間を基準に類型化しています。そのため、交通事故被害者が大人であろうと子どもであろうと、理論的には入通院慰謝料額に大きな違いが生じることはないでしょう。
ただし、加害者に故意や重大な過失(無免許、ひき逃げ、酒酔い運転等)が認められる場合には、増額される可能性もあります。
後遺障害慰謝料
後遺障害とは、交通事故により負ったケガの治療を一定期間継続したものの、身体に残存してしまった痛みやしびれ等の症状のことをいいます。
後遺障害は、これ以上治療を継続しても効果が上がらず、その苦痛、外見の変化、今後の日常生活を送る上での影響が生じた状態であるため、その精神的苦痛に対する慰謝料が考えられます。
この後遺障害慰謝料についても、裁判所は基本的に後遺障害等級に応じて慰謝料の基準を想定しています。したがって、大人と子どもとで差異はありません。
死亡慰謝料
交通事故により被害者の方が亡くなってしまった場合、亡くなられたこと自体に対する精神的損害が考えられ、これに対する賠償が死亡慰謝料です。死亡慰謝料についても、迅速な解決や紛争当事者間の公平という観点から、基準化・定型化が進んでいます。
裁判基準では、年齢だけではなく、家族の中で誰かを扶養する立場にあるのか、それとも扶養してもらう立場なのか、家庭内で被害者が担っていた役割に基づき慰謝料額を決定されます。
たとえば、「一家の支柱」であれば2,800万円、配偶者・母親であれば2,500万円、それ以外の方は2,000万~2,500万円が目安とされます(「赤い本」平成31年版参照)。
ここでは、未成年のお子様が交通事故に遭われたケースを想定していますから、一家の主柱ということは想定されないでしょう。その場合、2,000万円から2,500万円を目安に算定されることになります。
しかし、お子様が未成年であったとしても、例えば18歳で就労しており、両親もその収入で扶養しているようなケースでは、「一家の支柱」というべきですから、この点は実態に応じて交渉していくべきです。
子どもが事故に遭った両親固有の慰謝料
お子様が交通事故の被害に遭った場合、事故に遭ったお子様はもちろんのこと、その両親も精神的苦痛を負うことは言うまでもありません。
このような両親が被った精神的苦痛に対しても慰謝料として賠償される可能性があります。
お子様が亡くなった場合
お子様が交通事故により亡くなってしまった場合、その両親は、お子様の慰謝料と別に近親者固有の慰謝料を加害者に請求することができます。
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては………損害の賠償をしなければならない。
引用元:民法711条
お子様が受傷した場合
先ほどの民法711条では、「生命を侵害した場合」と規定されており、文言どおり解釈されるのであれば死亡事故に限られます。
しかし、裁判所は、交通事故により死亡しなかった場合でも、ケガの状況等により、両親が「その子の死亡したときにも比肩するような精神苦痛を受けたと認められる」場合には、両親が自らの権利として慰謝料を請求できると判断しています(最判昭和33年8月5日)。
過去の裁判例では、被害者が高次脳機能障害により上位の後遺障害等級が認定された件において、両親の固有の慰謝料が認められていることが多いです。
子どもの事故に対する賠償② ~逸失利益~
逸失利益とはどのような損害項目か
後遺障害が残ってしまった被害者の方は、事故前と同じように働くことができず、ほとんどの場合、働く能力の一部、または、その全部を失ってしまいます。そのために収入が大きく減少してしまう方もいることでしょう。
このように失われた能力や収入は、「後遺障害が残らなければ、本来、得られるはずであった」ものですから、加害者は賠償する必要があります。
また、交通事故で亡くなった方は、そもそも事故前のように収入を得る機会を奪われてしまっています。そのため、「亡くならなければ、本来、得られるはずであった」収入についても、加害者に賠償の義務があります。
以上のような、後遺障害や死亡という結果によって、本来得られたはずの収入(利益)が、「逸失利益」と呼ばれる損害項目なのです。
まだ就労していない子どもの逸失利益
逸失利益とは、前掲のとおり将来得られたはずの収入に対する賠償ですから、現在の裁判実務では、次のような計算式によって逸失利益を計算することとしています。
①基礎収入額×②労働能力の喪失率×③労働能力の喪失期間
※逸失利益の計算方法に関する詳しい解説は、「交通事故における逸失利益について解説」をご参照ください。
働いて給与を得ている人は交通事故の前の収入を基礎にできますが、年少の子どもの場合は就業していないので、逸失利益の算定基礎額が具体的にあるわけではありません。
労働能力喪失期間はどう考えるべきか
後遺障害とは、将来にわたって残存するであろう症状をいいますから、その労働能力への影響についても、就労できる年齢まで及ぶというのが原則的な考えです。
そのため、現在の裁判実務では、労働能力の喪失期間は、症状固定時の年齢から、67歳に至るまでの年数が原則的な労働能力の喪失期間とされています。
もっとも、まだ就労すらしていない未成年者の逸失利益については、未就労と考えられる期間を控除しなければなりません。
例えば、症状固定時15歳の中学生であれば、67歳に至るまでの年数は52年です。しかし、実際に就労するのが18歳からであると考えるのであれば、15歳から17歳までの3年間、減収を認める余地がありません。
そこで、この場合には52年から3年を控除した、49年間を労働能力喪失期間とすることになります。
子どもの事故に対する賠償③ ~付添看護費~
交通事故により、幼い子どもがケガをしてしまい、入院を余儀なくされる場合、保護者が入院に付き添わなければならないでしょうし、その後の通院においても保護者の付き添いが必要になります。
このような、子どもの入院・通院に保護者が付き添った場合、それに要した費用は「付添看護費」という損害項目で賠償の対象となり得ます。
ただし、親が子どもの入院や通院に付き添った場合の全てが損害賠償の対象になるということではありませんので、注意が必要です。
この点、裁判所は、医師の指示があった場合や症状の内容・程度、被害者の年齢等から付添看護の必要が認められる場合に、付添看護費を損害項目として認めています。
被害者が幼児や児童であれば、付添いの必要性が高いといえますが、中学生以上であれば、単独でも通院をすることができると一般的に考えられています。
そのため、医師の指示がない場合には、症状の内容や程度から、具体的に付添看護の必要性を判断する必要があります。
付添看護費は、入院付添が1日当たり6,000円、通院付添で1日あたり3,000円が目安とされ、具体的事情を考慮して、増額されることもあります。
過失割合 ~子どもの事故では大人と違う?~
交通事故の示談交渉においては、損害項目以外に争点となることが多い問題として、過失割合があります。
ここでは過失割合について説明した上で、子どもの事故特有の問題点についても触れたいと思います。
そもそも過失割合とは?
「過失」とは、簡単に言えば、交通事故の場面における当事者の不注意を意味します。
交通事故の加害者と被害者との間で、当該交通事故の原因に対する不注意の程度に応じて賠償の負担を分担するという考え方を過失相殺といい、当事者間における公平という観点から導かれるものです。その際の割合を「過失割合」といいます。
被害者に過失が認められた場合、過失相殺は損害額全体に及ぶため、過失割合は最終的な示談金額に大きく影響します。
過失割合における子どもと大人の違い
児童や幼児の場合、大人に比べて一般に判断能力や行動能力が低いとされ、これを特に保護する要請が高いことから、過失割合を減算修正するという考え方があります。
どの程度の減算修正とすべきかについては、個々の事案ごとに検討せねばなりませんが、実務上、過失割合を決するにあたっては「別冊判例タイムズ38 民事訴訟における過失相殺率の認定基準」という書籍が多用されています。
これは、車両の種類や事故態様ごとに類型化して、基準となる過失割合や修正要素が掲載されているものです。実際には、この書籍上で近似・類似性のある事故類型があれば、その類型において定められた基本過失割合を交渉の出発点として、個別事情による修正を行うことで、過失割合を決定していくという運用が図られています。
そして、被害者が「児童や幼児」であることは、この書籍においても、過失割合を有利に修正する要素として例示されており、類型に応じて、大人が被害者である場合に比べ5~20%程度減算されるものと説明されています。
なお、「児童」とは、この書籍上、6歳以上13歳未満の子どものことをいい、「幼児」とは、6歳未満の子どものことをいうものと定められています。
親の過失が考慮されるケース
過失相殺は、基本的には被害者本人の過失を問題とされるものとされますが、過失相殺における「過失」は、被害者の社会生活上の落度ないし不注意を含む被害者の諸事情とされ、いわゆる「被害者側の過失」として、もう少し広く解される場面があります。
前掲のとおり、児童・幼児は一般に判断能力や行動能力が低いとされ、交通事故の場面において保護すべき要請が高い一方で、その親としても、そのような子どもの動静を見守り、交通事故に遭わないように注意・監督する義務があります。
そのため、親がこのような義務を怠り、結果として子どもが交通事故に遭ってしまった場合には、親の不注意を加味して「被害者側の過失」として判断されることになります。
弁護士を依頼した場合のメリット
適切な金額で損害賠償を受けられる可能性
交通事故の損害賠償といっても、その中には様々な損害項目が含まれていますので、それらを漏れることがないよう、加害者側の保険会社と交渉しなければなりません。
そして、これまで見てきたように、交通事故の被害者がお子様である場合には、それに応じて損害の考え方や項目を吟味しなければなりません。
加害者側の保険会社が親切に全て説明してくれればいいですが、必ずしも期待出来ません。
また、別の記事でもご説明しておりますが、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、逸失利益について、弁護士が裁判基準で交渉することにより、訴訟に至らずに適正な金額で損害賠償を受けられる可能性が高くなります。
ご両親の負担・不安を軽減し、お子様も安心できる
交通事故によりお子様がケガをされた場合、ご両親としては、お子様の身体が心配であるうえ、日々の付添いなどのサポートのため、お仕事等に対しても支障が生じることでしょう。
そのような状況で、加害者側の保険会社との交渉や電話対応も重なった場合には、精神的なご負担は計り知れないことと存じます。
ご不安やご負担をご家族のみで抱え込む前に、是非一度弊所にご相談ください。
弁護士が被害者の代理人として窓口になることができますので、ご両親は、お子様の看病やお仕事に注力していただけます。
また、ご両親がお子様に寄り添えることで、お子様のご不安を少しでも解消できることでしょう。
さいごに
弊所では、これまで、数多くの交通事故事件を解決してきました。
これまでの経験を生かし、お子様が交通事故に遭われたご両親のお力になり、少しでもご負担やご不安を軽減できるようサポートいたします。