神経症状とは~後遺障害の種類を解説~
局部の神経症状の後遺障害とは、交通事故の外傷によって、主には首や腰に症状固定後も知覚障害、痛み、しびれ等が残存することをいいます。(首や腰に限られませんが、ほとんどが同部位の症状が問題となります。)
交通事故の被害に遭った方々のその多くが首や腰の痛みで治療を継続しており、治療を継続したけれども症状が一進一退で知覚障害、痛み、しびれ等が残存してしまった例も非常に多いです。
今回は、多くの方が悩んでおられる局部の神経症状の後遺障害について、交通事故問題に特化した弁護士の観点から解説します。
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この記事の目次
局部の神経症状の後遺障害等級
局部の神経症状の後遺障害等級には14級9号「局部に神経症状を残すもの」と、より重傷な12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」の二つがあります。
なお、症状は残存しているけれども、後遺障害であるとは認定できないもの、つまり非該当となる結果も多いです。
14級9号の「局部に神経症状を残すもの」とは
14級9号の「局部に神経症状を残すもの」とは、現在の自賠責保険実務において「障害の存在が医学的に説明可能なもの」という考え方が採用されています。裁判例においても、この点を引用するものがあります。
自賠責保険実務においては、「提出の画像上、骨折等もなく、他覚的に神経系統の障害が証明されるものと捉えることは困難です。」、「しかしながら、治療状況や症状経過等を勘案すれば、将来においても回復が困難と見込まれる障害と捉えられる」などと認定の理由が示されることが多いです。
12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは
12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」とは、「障害の内容が医学的に証明できるもの」をいいます。ここにいう「証明」とは、いわゆる他覚所見が存在することを意味しています。
非該当とは
非該当とは、知覚障害、痛み、しびれ等の自訴があるものの、現在の自賠責保険実務において「障害の存在が医学的に説明できないもの」という考え方が採用されています。
「提出の画像上、本件事故による骨折等の外傷性の異常所見や脊髄・神経根への圧迫所見はいずれも認め難く、有意な神経学的所見に乏しいことから、他覚的に神経系統の障害が証明されるものとは捉え難いことに加え、その他症状経過や治療状況等も勘案した結果、将来においても回復が困難と見込まれる障害とは捉え難い」との認定理由が示されることが多いです。
「14級」と「非該当」の区別
14級と非該当、いずれもが「提出の画像上、骨折等もなく、他覚的に神経系統の障害が証明されるものと捉えることは困難」なものですので、具体的な区別は非常に難しいです。
14級の非該当の区別は「障害の存在が医学的に説明できる」ものか否かが基準となります。具体的な14級が認定される基準は以下の通りです。
14級が認定される基準
- 事故当初から症状固定まで一貫して障害を訴えている
- 将来においても回復困難
- 同障害が常時存する
以下、それぞれについて詳しく解説します。
症状の一貫性
事故当初から症状固定まで、診断書において一貫して同様の症状の訴えが記載されている必要があります。
通常、打撲や捻挫の痛みは事故直後から感じるものであり、例えば事故から10日後に事故当初記載されていなかった症状の記載がある場合は、よほど合理的な理由が無い限り、症状の一貫性(そもそも事故との因果関係が遮断される可能性があります。)が否定され、非該当になるケースが多いです。
痛かったけど我慢していた、という程度の説明では不十分です。
将来においても回復が困難と認められるか否か
将来において緩解可能な障害は後遺障害とはいえません。この要素については、私見ですが、相当長期間(6か月程度)、定期的(週1~3ペース)に医師の指示に従って治療したものの、症状の軽減が明らかで無い場合に後遺障害と認定されているように思います。
「常時」知覚障害、痛み、しびれ等を訴えているか
交通事故実務における後遺障害とは、「常時、残存している症状が継続している」ことも重要な要素となります。
従いまして、「寒くなると痛い」、「雨の日に重だるくなる」などの自訴をされる方がいますが、天候や気温によって症状が出るものは、後遺障害と認定されない可能性が非常に高いです。
14級と12級の区別
り14級と12級の具体的な線引きは、「他覚所見があることによって、障害が医学的に証明できる」か否かによって決せられます。この医学的(他覚的)に証明できるとは、現在残存している症状の原因が他覚所見に基づいて判断できる状態を指すと言われています。
「他覚所見」の考え方
被害者側からすれば、画像所見までは確認できなくとも、医師の検査により異常所見(神経学的検査所見等)が存在することが確認できれば、それが12級の該当要件であると主張されたいことでしょう。
しかし保険実務上は、画像などによる他覚所見の裏付けがなければ、12級の該当要件は満たさないと考えられています。
そのため、画像所見までは確認できないが、症状が発生しても不合理では無い状態が確認できれば、14級に該当するという考えが一般的だろうと思います。
裁判所の考えはどうかと言うと、医学的(他覚的)に証明できるとは画像で明らかになると捉えているケースが大部分であろうと思います。
画像所見の重要性
12級の後遺障害とは、14級と比べてかなり酷いレベルの障害ですので、私見では明らかな画像所見がないとほとんど認められていないという実感です。その意味では、やはり画像所見が最も大事でしょう。
また、画像の所見は以下の3点を前提としているため、単に何らかの異常が画像上明らかであるというだけでは不十分という点も、押さえておく必要があります。
画像所見の3つの前提
- 加齢によって生じたものではない
- 事故によって生じたものである
- その所見と、他の検査結果や、症状が整合している
補足~各種神経学的検査所見の評価について
前述のとおり、神経学的検査所見は後遺障害認定の重要な要素となりますが、その評価は慎重に判断されています。といいますのも、患者の意志のみに左右される検査もあるからです。
つまり、一般的に、患者の意志と無関係に結果を得ることが出来る検査法と患者の応答や協力を前提とする検査法(たとえば、腱反射など)では、明らかに前者の方が客観性が高く、評価価値も高いです。
これに対して、圧痛点や筋力検査、知覚検査等の患者の協力が前提となる検査法(たとえばジャクソンテストやスパーリングテスト)は、患者の意志に左右されるため、客観性が低く、評価価値が低いと言われています。
自賠責保険の認定実務における判断
ほとんどの被害者の方は後遺障害が残っていると思った場合、まずは自賠責保険会社の後遺障害等級の認定申請を行うこととなるでしょう。そこで、以下では自賠責保険の認定実務における判断について解説します。
12級と14級、共通の判断要素
事故状況、車両損傷状況
まずはここが出発点です。どの程度の外力が身体に加わったのかという点は重要な判断要素となります。
例えば後方から追突された場合、後部バンパーがやや凹んだ程度で修理代金も20万円前後であれば、身体に加わった衝撃は比較的軽微であると判断されるため、将来において回復困難な障害とは捉え難いでしょう。
他方、激しく追突されて後部のトランクドアが開閉しない、後部ガラスが割れて車内に飛散している、車両の骨格部分まで損傷している等、修理金額も高額であればそれだけ身体に激しい外力が加わったと評価できますので、後遺障害認定にとって有利な一要素となります。
受傷機転
症状固定時において自訴している部位が、事故によってどのように受傷したのかを合理的に説明できる必要があります。
例えば、頸部14級のむちうち症による後遺障害を申請する場合、「後方から激しく追突され、ヘッドレストに頸部を強く打ち付けた」といった具合です。
症状固定まで一貫して診断されているか
症状の一貫性も重要な要素です。初診から症状固定まで一貫して同じ部位の自訴があれば、将来にわたっても同部位が回復困難な障害と捉えやすくなります。
治療経過
相当長期かつ定期的に通院し、医師の治療を受けたにも関わらず、緩解の見込みが無い場合は、やはり将来にわたっても同部位が回復困難な障害と捉えやすくなります。
私見ですが、6か月が目安であると思います。不定期的な通院や、通院頻度が少ない場合は、認定においても相当不利に扱われる可能性があります。
12級固有の判断要素
以上の共通の判断要素に加え、12級が認定されるための固有の要素は、前述のとおり画像所見です。
14級固有の判断要素
14級が認定される基準
- 事故当初から症状固定まで一貫して障害を訴えている
- 将来においても回復困難
- 同障害が常時存する
前述した上記3つの基準や、12級と共通の判断要素に加えて、画像所見(ヘルニア等の事故前からの何らかの変性所見)や他覚的所見とまでは言えないが神経学的所見での異常があることが要素となります。
つまり、自訴のみでは認定されないということです。
非該当となる固有の判断要素
非該当となる判断要素
- 初診が事故から相当期間経過後である
- 治療途中で治療中断期間があった
- 季節や天候で左右される症状であると後遺障害診断書に記載がある
以上が非該当となる固有の判断要素です。症状がある場合、必ず事故から1週間以内に医師の診断を受けることを推奨します。また、1か月以上の中断期間が無いよう注意してください。
比較的近時の裁判例の紹介
非該当事案
【京都地裁 平成23年9月30日判決】
事故により頸部挫傷、腰部挫傷の傷害を負い、頸部、後屈および右側屈時痛、右肩背部放散痛を残したが、画像上、外傷性の損傷所見はなく、神経学的検査においても陰性であること、事故後の治療も消炎鎮痛剤の処方や理学療法を受けることなく単に診察のみであったこと、疼痛部位が天候によっても左右され一定しないことから、後遺障害残存を否定。
上記裁判例においては、画像上の所見、神経学的所見、治療経過、常時性を要素としており、上述した判断要素がやはり裁判所においても重要視されていることが確認できます。
14級事案
【大阪地裁 平成21年3月24日判決】
頸部および腰部の神経症状について、左握力の低下、ジャクソンテストおよびスパーリングテスト左+、左知覚鈍麻等の記載が診断書にあること、事故による衝突時の衝撃力は決して軽微とは言えないことなどから、後遺障害の残存は認められるが、いわゆる他覚的所見までは認められないから、12級には該当せず、14級に止まるものとした。
上記裁判例においては、事故態様、事故時の外力の程度や神経学的所見等も鑑み、14級と認定しています。そして、やはり12級との区別は他覚的所見であると判断している点も参考になります。
12級事案
【名古屋地裁 平成22年3月19日判決】
スパーリングテストなどの頚椎圧迫テストで神経根が刺激されて出現する左上肢の疼痛やしびれ、知覚障害が誘発でき、この症状が自覚症状と同じである点、画像でC5/6、6/7での左に優位の椎間孔狭窄が認められ、サーモグラフィーでも上肢の温度差がある点などで、「障害の存在が医学的に証明できるもの」といえるから12級13号に該当する。
上記裁判例においては、画像所見があり、これと整合する症状・神経学的検査結果も存在したことから、障害の存在が証明可能であったため、12級が認定されています。
まとめ
以上が神経症状における後遺障害認定のポイントです。最も大事な点は後遺障害診断書の記載内容と画像所見、神経学的所見の獲得です。
弁護士が被害者の代理人として後遺障害の申請を行う際は、画像所見の確認、推奨される神経学的検査の実施を医師へ伝える、後遺障害診断書の記載に問題点がないか確認する、そして弁護士が後遺障害認定の重要要素について意見書を作成して添付するなど、獲得に向けて尽力することとなります。
弊所では整形外科の顧問医もおり、ケースによっては顧問医の意見書も添付した上で、万全の準備を整えて申請します。
これら申請準備は、やはり被害者の方が独自で行うことは困難です。適切な後遺障害認定を獲得するためにも、申請の際は是非とも弁護士にご相談ください。