高次脳機能障害 – 後遺障害の種類を解説
交通事故で頭に怪我を負ってしまった場合、骨折や出血などの目にみえる症状が収まったとしても、脳がダメージを受けて正常に働かないといった症状が残ることがあります。
このような症状には大別して、脳の高度な機能を損なう「高次脳機能障害」と、四肢などの麻痺や体感失調を伴う「神経障害」があります。特に前者のみが生ずる場合には、後遺障害のなかでも複雑な立証活動を要求されます。
そのため、家族・医師・弁護士が被害者の症状を理解し、三位一体となってサポートしなければ、適切な賠償金を獲得することが難しいといえます。
そこで、この記事では、後遺障害のうち「高次脳機能障害」に関する情報について、高次脳機能障害の取扱い経験が豊富な弁護士の視点から、徹底解説いたします。
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この記事の目次
高次脳機能障害とは
「高次脳機能障害」の定義
脳には、目や耳から得た光や音の情報を受け取る(インプット)機能や、手足を動かす命令を出す(アウトプット)機能があります。このような単純な伝達機能は、脳の「一次的機能」と呼ばれます。
しかし私たちは日常生活のなかで、より複雑な脳の使い方をしているはずです。
たとえば、目や耳から得た情報は、単に脳で受け取るだけではなく、組み合わせて考えたり(情報処理)、蓄積(記憶)しています。また、行動には何らかの目的があるはずですし(計画・遂行)、他者に考えを伝えるために言葉を話したり文章を書いたりします(言語化)。
このような高度な機能が「高次脳機能」と呼ばれ、この高次脳機能に異常が生じていることを「高次脳機能障害」といいます。
高次脳機能障害の症状例
脳は部位ごとに司る機能が異なり、どの部位がダメージを受けたのかによって生ずる症状も様々です。一例として、下記表のようなものが考えられます。
記憶力の低下 | ・事故前の記憶が失われている ・事故後に新しいことが覚えられない |
意思疎通能力・言語能力の低下 | ・会話や言葉を正確に理解できない(失語) ・自分の気持ちを伝えることができない |
遂行能力の低下 | ・計画立てた行動ができない |
判断力・情報処理能力の低下 | ・新しく入った情報と、知っている情報を組み合わせて判断できない ・複数のことを同時にこなせない ・失敗や予想外の事態に対処できない |
注意力・持続力の低下 | ・作業を継続できない ・無関係のことに気を散らされる ・何度も同じミスを繰り返す |
性格の変化 | ・積極性がなくなった ・怒りっぽくなったり、言葉遣いが荒くなった ・幼稚化した ・羞恥心が低下した ・異様なこだわりができた ・多弁(饒舌)になった |
社会協調性・コミュニケーション能力の低下 | ・周囲の状況に合わせた言動ができない ・周囲の反応が予測できない。 |
ほんの一例ですので、上記の症状以外にも「事故前と様子が違う」、「コミュニケーションが取りづらくなった」などの違和感があれば、念のため医師に報告してください。
高次脳機能障害に関する基礎知識
周囲によるサポートの重要性
高次脳機能障害が残った方の多くは、症状の程度に関わらずご自身で症状に気付けません。医師も注意を払ってはくれますが、限られた診察の時間のなかですべての症状を把握することも困難です。
また、「事故前と様子が違う」といったタイプの症状は、事故前から共に過ごしていたご家族でなければ分からないことも多いのです。
以上の理由から、高次脳機能障害は見落とされやすい後遺障害であるといわれます。
周囲の方々は症状を見落とさないように、事故前との違いがないか注意深く見守り、気付いてあげる必要があるということを意識してください。
見守りと医師への情報共有
事故後に高次脳障害が残った場合、効果的なリハビリ・検査を受けるために、医師にできる限り正確に症状を把握してもらう必要があります。
また、後遺障害の認定手続きにおいては、できる限り早い段階から具体的な症状が記録化されていることが重要になります。
ですから、単に「高次脳機能障害が残っていること」を認識するだけでは不十分で、具体的に「何ができなくなったのか」、「どのような変化が生じているのか」といった具体的な症状を早期に把握して医師に伝えることが重要になります。
また、等級の認定を獲得するため、把握した際の状況をメモなどに記録しておくことをお勧めいたします。
高次脳機能障害の認定要件
高次脳機能障害が残ってしまっても、これを後遺障害として認定してもらえなければ適切な賠償金を獲得することは難しいといえます。
後遺障害等級を認定する自賠責保険では、次のような条件を満たす場合に高次脳機能障害に等級を認定しています。
初期の重篤な意識障害
事故から間もない時期に、次のいずれかの状態が認められることが必要です。
・昏睡やこれに準ずるほどの意識障害(JCSが3~2桁/GCSが12点以下)が6時間以上継続していた。
・意識不清明(JCSが1桁/GCSが13~14点)や健忘症状(ひどい物忘れや記憶の混濁)が1週間以上継続していた。
なお、意識障害を分類・評価する際に用いられる「JCS」、「GCS」とは、次のような基準です。
JCS(ジャパン・コーマ・スケール)
| 判断基準 | スコア |
刺激しても目を開けない | 痛み刺激に反応しない | 300 |
痛み刺激に反応して、手足を動かしたり顔をしかめたりする | 200 | |
痛み刺激に対して、払いのける運動をする | 100 | |
刺激がなくなると目を閉じる | 呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する | 30 |
簡単な命令に応じる | 20 | |
合目的な運動をするし、言葉も出るが、間違いが多い | 10 | |
刺激がなくても目を開けている | 自分の名前、生年月日が言えない | 3 |
見当識障害がある | 2 | |
清明とはいえない | 1 | |
意識障害がない | 清明 | 0 |
GCS(グラスゴー・ゴーマ・スケール)
E+M+Vの合計スコアにて評価
(E)Eye opening(開眼機能) | |
自発的 | 4 |
言葉による | 3 |
痛み刺激による | 2 |
なし(刺激痛でも開眼しない) | 1 |
(M)Motor response(刺激に対する運動反応) | |
命令に従う | 6 |
はらいのける | 5 |
逃避的屈曲 | 4 |
緩徐な屈曲 | 3 |
伸展する | 2 |
なし(刺激に対し反応がない) | 1 |
(V)Verbal response(言語反応) | |
見当識あり | 5 |
錯乱状態 | 4 |
不適当 | 3 |
理解できない | 2 |
なし(発語しない) | 1 |
脳に損傷があることを示す診断名
意外と重要なことですが、事故後間もない時期から、脳に損傷があることを示す診断名が付されている必要があります。
単に「頭部外傷」といったもののほか、脳内の出血や、これに伴って血腫(血が溜まっている様子)が生じていることが分かる内容のものでもよいでしょう。
その他の診断名に「びまん性軸索損傷」がありますが、これは脳の各部を繋いでいる神経が、脳に急激な回転力が加わって引きちぎられてしまうことを指します。高次脳機能障害が生じていることを示す典型的な診断名です。
CTやMRIによる脳損傷所見
高次脳機能障害は、高次脳機能を司る脳の各器官が損傷することによって生じますが、そのことが画像検査でも把握できることが重要になります。
典型例は、MRIにより脳の萎縮が認められるというものです。通常は脳と頭蓋との隙間が広がったり、脳の内部にあるスペース(脳室)が拡大しているといった情報から判断されます。
但し、脳の萎縮は事故から3ヶ月の間で生じ、6ヶ月も経過すると進行が認められません。そのため、事故から3ヶ月までの間に何度かMRI検査を受けておいた方が無難です。
また、近年では、脳の萎縮が把握できることは必須の要件とはされていません。
CTで血腫により脳が一定時間圧迫されていることが認められたり、MRIで脳内に浮腫が多く生じていること、または脳挫傷痕が残されていることなどが認められると、高次脳機能障害を示す画像所見として扱われる可能性があります。
その他の画像検査
CTやMRI以外にも種々の画像検査があります。脳内のブドウ糖の代謝を観察することで、脳器官や神経受容体が正常に作動しているかを確認するPET検査や、脳内の血流を観察するSPECT検査が代表例です。
これらの画像検査はCTやMRIでは把握できない脳機能の低下が伺えますが、脳損傷の所見そのものが獲得できるわけではないため、自賠責保険においても事故当初にCTやMRIで所見を獲得できている場合の補助的な資料とされています。
保険適用もありませんので、このような検査を実施する際には医師や弁護士と協議し、その有用性をよく確認するべきです。
高次脳機能障害の認定に向けた準備
等級認定手続は保険会社を通じて実施することで手間は省けますが、保険会社は必要最小限の資料しか取り付けてくれず、認定に不利な意見書を添付する可能性すらあります。
したがって、適切な等級を獲得するという意味では、専門的な知識を有する弁護士と連携し、保険会社に任せることなく主体的に準備を進めることが必要です。
以下では、高次脳機能障害の認定に向けた準備について詳細に解説します。
周囲の方による資料の作成
高次脳機能障害の等級認定手続は、周囲の方々のサポートにより作成された資料が出発点となります。
このような資料は医師、弁護士、ひいては後遺障害を認定する自賠責保険においても、どのような症状が残っているのかを確認する上で重要です。
具体的なエピソードの記録
高次脳機能障害による症状や、それらしき状態を確認した場合、その際の状況を可能な限り具体的に記録化しておくことが推奨されます。
例えば、「物忘れが激しい」という症状を確認したとしても、それだけを記録するのでは不十分です。「いつ、どこで、どんなことがあったのか。」といった具体的なエピソードを記録しなければなりません。
エピソード記録の例
10月10日、宅配便が来るので受け取るよう伝えて留守番を任せたが、そのことを忘れて買い物に出かけてしまい、受け取り損ねた。
このような記録は、様子がおかしいと感じ始めた直後から丁寧に残しておくことが肝要です。当事務所でも、ご依頼者様からエクセルやスマートフォンのメモなどに記録を残していただき、1ヶ月に一度メールで弁護士にお送りいただくなどして、記録を蓄積することがあります。
場合によってはその記録自体が、認定手続において重要な資料とされたり、裁判において証拠となったりすることもあります。
なお、症状とは別に、ご家族が実施している具体的なサポートの内容も記載できるとベターです。
「日常生活状況報告」の記入
頭部に大きな怪我をした方は、高次脳機能障害が残っているか否かにかかわらず、家族の方に、「日常生活状況報告」という書類を作成していただく必要があります。
後遺障害の認定機関は日常生活状況報告を確認し、高次脳機能障害を見落とさないようにしています。
「別紙」の作成
日常生活状況報告には選択式の問いが多く並んでいますが、そのような項目だけではカバーしきれない症状もあります。
そのため、ご家族の方が把握している日常生活における支障や、事故前からの変化点を、「別紙」にまとめて提出することが推奨されます。
この「別紙」に具体的なエピソードを記入するために、先に説明した記録づくりが重要となります。
記録さえいただければ弁護士が整理して文章化することもできますし、記録自体がエクセルなどで整理されていれば、それ自体を「別紙」とすることも考えられます。
家族以外の方による協力
一方で、被害者の方に残った日常生活の変化や支障は、ご家族が説明するよりも、ご家族以外の方が説明したほうが信用性が高いという側面があります。そこで、ご家族の方以外にも、事故前後を通じて交流がある方に、資料の作成をお願いすることがあります。
例えば学生の方であれば、事故前の担任の先生と事故後の担任の先生に「学校生活の状況報告」という書面を作成いただくことがあります。
またお勤めされている場合には、職場の上司や同僚の方々に、事故前と事故後で能力や働き方に変化がないか、社内でどのような配慮をしていただいているのかといった点をまとめて、質問状をお送りするなどの工夫が考えられます。
医師に協力していただく準備
高次脳機能障害であるか否かにかかわらず、後遺障害の等級認定に進むためには、「後遺障害診断書」の作成が必要となります。
高次脳機能障害の場合には、これに加えて次のような書面の作成を依頼することが一般的です。
「頭部外傷後の意識障害についての所見」
認定要件である受傷後6時間以上の意識障害について、JCSやGCSを以て評価するほか、1週間以上の健忘症状などについて回答する書面です。
転院を挟んでいる場合には、初診や初期治療を担当した医療機関に作成いただく必要がありますから、症状固定を待たず先行して作成依頼を出してもよいでしょう。
「神経系統の障害に関する医学的意見」
高次脳機能障害を示す所見に対する見解や、各種検査の結果、日常生活や就労にどの程度の障害が残ると予想されるか等を記載する書面です。
「脳損傷又はせき髄損傷による障害の状態に関する意見書」
労災保険において高次脳機能障害の等級を検討するために用いられる書式ですが、自賠責保険に対して等級認定をお願いする場合であっても有用です。
この意見書には、労災保険における高次脳機能障害の認定基準に即した質問欄があります。
この欄への記載がすべてではありませんが、医師が被害者の方の現状を十分に把握しないまま記載されると、認定機関に誤った印象を与えかねませんので注意が必要です。
各種検査の実施
「後遺障害診断書」や「神経系統の障害に関する医学的意見」には、高次脳機能が低下していることを示す検査の結果を記載するのが一般的です。
この種の検査には非常に多様なものがあり、被害者の方の症状に合ったものを実施していただく必要があります。例えば、記憶力が低下しているからといって、記憶力に関する検査のいずれもが効果的とは限りません。
このような点からも、具体的な症状をご家族が医師と弁護士に共有し、より適切な検査を双方から提案できるようにすべきでしょう。有力な検査の一例は以下の通りです。
知的機能に関する検査 (※) | ・ウェクスラー式知能検査(WAIS-III/WASC-III) |
注意機能に関する検査 | ・トレイルメイキング |
記憶機能に関する検査 | ・三宅式記銘力検査 |
遂行機能に関する検査 | ・遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) |
言語機能に関する検査 | ・標準失語検査(SLTA) |
(※)この領域に属する検査には、その他に長谷川式簡易知能評価(HDS-R)などがありますが、簡易なスクリーニング検査が多く、基本的にはウェクスラー式知能検査の実施が推奨されます。
高次脳機能障害の等級と認定基準
高次脳機能障害の認定条件をクリアしても、実際の賠償金は認定された等級によって大きく変動します。
高次脳機能障害による等級認定を目指す場合には、目指す等級に必要な資料を整理し、等級認定基準に達していることを効果的に伝える必要があります。通常は、弁護士が収集した資料に基づいて意見書を作成することになるでしょう。
以下では、各等級ごとに定められた認定基準をご紹介いたします。
自賠責保険における基準
自賠責保険においては、高次脳機能障害の存在が認められた場合、就労・就学できる範囲や、日常生活の制限などを総合的に考慮して等級が認定されます。
具体的には以下のような基準が公開されています。
第1級 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの」 |
(補足的な考え方) 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回りの動作に全面的介護を要するもの。 | |
第2級 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの」 |
(補足的な考え方) 著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの。 | |
第3級 | 「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、労務に服することができないもの」 |
(補足的な考え方) 自宅周辺を1人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。 しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己意識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの。 | |
第5級 | 「極めて軽易な労務にしか服することができないもの」 |
(補足的な考え方) 単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。 ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの。 | |
第7級 | 「軽易な労務にしか服することができないもの」 |
(補足的な考え方) 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの。 | |
第9級 | 「通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの」 |
(補足的な考え方) 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるもの。 |
自賠責保険における高次脳機能障害の等級は9級までとなります。
もっとも、高次脳機能障害に至らない程度の障害であっても、頭部・脳損傷が生じていたことが画像上も認められれば、第12級が認められることがあります。
第12級 | 「局部に頑固な神経症状を残すもの」 |
また、脳損傷が画像上は十分に伺われない場合であっても、身体機能や脳機能に異常があることが医学的にも説明ができる場合には、第14級が認定されることがあります。
第14級 | 「局部に神経症状を残すもの」 |
労災保険における基準
労災保険における障害等級にも、高次脳機能障害が設けられています。
自賠責保険とは公開されている認定基準と比べると、第1級と第2級には実質的な差異はありません。
これに対し、第3級以下は高次脳機能を「4能力」に分類し、その喪失程度を基準として等級を認定する点に特徴があります。
労災保険における「4能力」
- 意思疎通能力
- 問題解決能力
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力
両制度での認定内容に大きな差が生じることも不合理であるため、自賠責保険における等級認定の際にも、この「4能力」が参考にされています。そのため、自賠責保険における後遺障害等級の妥当性を検討するうえでも有用です。
労災保険における等級認定基準
食事・入浴・排泄・更衣等に対して | |
第1級 | 常時介護を要するもの |
第2級 | 随時介護を要するもの |
4能力の喪失程度について | ||
| 1つ以上の能力 | 2つ以上の能力 |
第3級 | 全部喪失 | 大部分喪失 |
第5級 | 大部分喪失 | 半分程度喪失 |
第7級 | 半分程度喪失 | 相当程度喪失 |
第9級 | 相当程度喪失 |
|
第12級 | 多少喪失 |
|
第14級 | わずかな能力喪失 |
※脳の損傷を示す所見が十分ではない場合であっても、第14級の認定が獲得できることがあります。
加重障害に注意が必要
事故により後遺障害が認めてもらえた場合でも、同じ部位に事故前から発現していた症状(既往症)がある場合、「加重障害」という認定を受けることがあります。
例えば、高次脳機能障害が残って一般就労ができなくなり「第3級」の認定を受けたが、もともと認知症が進行していたので、事故前から「第9級」に相当する障害があったとされた場合などがそうです。
加重障害の認定を受けた場合、少なくとも自賠責保険から支払われる保険金は「認定等級の保険金額から、既往症等級の保険金額を差し引いた額」となりますし、賠償金の請求時においても「事故前から後遺障害に相当する障害が生じていた」という事情は無視できません。
したがって等級認定の申請段階で、事故以前の生活状況や通院歴などをよく確認し、認定機関が誤った評価をしないよう、既往症の程度を明らかにしておく方が望ましいでしょう。
なお、現在の等級だけでなく、加重障害として認定された既往症の等級にのみ不服がある場合でも、認定手続に不服を申し立てることができます。
まとめ
高次脳機能障害が残ってしまった場合に、適切な後遺障害の等級認定を獲得するためには、非常に高度な専門知識が要求されます。
今回の記事では、特にご家族の方にも気にしていただきたい点に焦点をあてましたが、等級認定を得るためには、今回ご説明した知識だけでは対応できないこともあります。
また、実際には、高次脳機能障害の被害者の方のご家族は、そのサポートに注力せざるを得ず、後遺障害の等級認定に向けた準備にまで手が回らないケースが多いように見受けられます。
そのため、高次脳機能障害が残存すると医師から指摘された方はもちろん、頭部に大きなお怪我を負われた方は、迷わず、早期に専門知識を有する弊所までご相談ください。
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参考-脳に関する後遺障害
以下は同じく脳に由来する後遺障害ではありますが、症状も認定基準も異なるため、この記事では説明しておりません。
しかし、適切な賠償金を獲得するうえでは専門家によるサポートが不可欠であるという点は異なりません。あくまで一例ですが、該当する場合には、やはり早期にご相談ください。
遷延性意識障害
意識が覚醒しなかったり、意識があるものの反応がない場合は、「遷延性意識障害」に分類されます。
「植物状態」と称されることもありますが、脳神経外科学会による定義付けは、「種々の治療にもかかわらず、3か月以上にわたって、以下6項目を満たすもの」とされています。
①自力移動不能
②自力摂食不能
③糞便失禁状態
④意味のある発語不能
⑤簡単な従命以上の意思疎通不能
⑥追視あるいは認識不能
第1級が想定される極めて重篤な後遺障害ではありますが、他者からも分かりやすい症状であるため、等級認定の難易度が高いというわけではありません。
むしろ問題が生じるのは、意識・反応すらないなかでの介護費用などをどのように算定するかという、等級認定後の損害賠償の場面でしょう。
非器質性精神障害
画像検査によって脳にダメージが生じていることが分からないのにもかかわらず、脳機能や精神状態に異常をきたす後遺障害です。
高次脳機能障害のように、どのような症状が残っているのかを具体的に記録し、証明する必要があります。
また、程度に応じて第9級、第12級、第14級という3種類の等級が用意されていますが、精神医学的には適切な治療を継続することで完治する可能性が高いとされており、そのことが等級認定や賠償金にも影響します。
回復の見込みが乏しいことを前提とする後遺障害のなかでは異質なものです。
外傷性てんかん
脳の損傷により、てんかん発作を起こすものをいいます。服薬治療を経ても症状が改善されない場合には、後遺障害として認定されます。
発作の種類(程度)や回数(頻度)によって、第5級、第7級、第9級、第12級までの4等級が設けられています。
認定のためには、てんかん発作が生じていることを示す脳波テストを実施する必要があります。
MTBI
頭部・脳に対する直接の損傷が生じていないのにもかかわらず、脳に由来する障害が生ずるものを指します。頭痛や眩暈にとどまらず、意識障害や記憶障害を伴うこともあります。
頭部が揺られることによる脳震盪によって生ずるともいわれていますが、はっきりと原因が特定されているわけではありません。
MTBIとは、「軽度(Mild)外傷性脳損傷(Traumatic Brain Injury)」の略ですが、厳密に定義されているわけではありませんので、自賠責保険や裁判所でも正面から等級を認めたり、基準を定めるといったところまでは至っていません。