後遺症と後遺障害の違い
交通事故の被害に遭うと、さまざまな後遺症が残ってしまうことがあります。
後遺症が残ると、身体が不自由になって仕事ができなくなったり、日常生活に支障が発生したりするので、被害者は大変不便な思いをすることになります。
交通事故の被害に遭って後遺症が残ったときには、「後遺障害」の認定を受けることが非常に重要です。後遺症が残っていても、後遺障害の認定を受けないと、必要な賠償金の支払いを受けることができないからです。
今回は、交通事故の「後遺症」と「後遺障害」の違いについて、交通事故に詳しい弁護士の視点から解説します。
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この記事の目次
後遺症とは
交通事故でケガを負うと、完治することなく「後遺症」が残ることがあります。
後遺症とは、身体や精神に残った何らかの症状のことです。
たとえば、交通事故が原因で指がなくなったり、視力が低下したり、脳の認知機能が低下したり、痛みやしびれがとれなかったりすると、それらはすべて交通事故の後遺症と言えます。
後遺障害とは
後遺障害とは、「傷害が治ったとき身体に存する障害」(自動車損害賠償法(「以下、「自賠法」という。」施行令2条1項2号)をいい、具体的な障害として、自賠法施行令別表第一及び第二の等級に該当しているものをいいます。
この自賠法上の「後遺障害」の意味を明示的に示した文献はないようですが、おおまかには次のような条件を充足すれば、「後遺障害」に該当するというイメージがあるようです。
■ 症状が、将来にわたって完治しないこと,もしくは長期間回復が見込めないこと
■ 症状と交通事故に因果関係があること
■ その症状が労働能力の喪失を伴うものといいうること
■ 後遺症の存在を、医学的に認められること
■ その症状が、自賠責保険の後遺障害認定に該当すること
つまり後遺症には、後遺障害と認定されない後遺症(「単なる後遺症」)と、「後遺障害と認定される後遺症」の2種類があることになります。
後遺障害認定を受けないと、賠償金を請求できない
「単なる後遺症」と「後遺障害と認定された後遺症」とでは、請求できる賠償金の額や種類が異なります。
後遺障害の等級認定を受けると、等級に応じた高額な賠償金を請求することができます。
具体的に請求することが認められる賠償金は、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」です。
単に後遺症が残っているだけの状態では、これらの賠償金を請求することができません。
つまり、交通事故の被害で身体的・精神的な不調として後遺症が残っていても、後遺障害としての認定を受けないと、十分な賠償金の請求をすることができません。
そのため、交通事故で何らかの後遺症が残った際は、放置するのではなく、きちんと後遺障害等級認定の手続きを進める必要があります。
後遺障害認定によって請求できる賠償金
次に、後遺障害として等級認定を受けることができた場合に請求できる、「後遺傷害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」について、詳しくご説明します。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残ってしまったことによる精神的苦痛に対する賠償金です。
後遺障害として認定を受けると、後遺障害の等級に応じて後遺障害慰謝料が支払われます。
もっとも後遺障害慰謝料については、裁判所の基準によるものと自賠責の基準によるものの主に二種類あります。
また、裁判所の基準と一口にいっても地方の裁判所毎に基準が異なることもあります。
一例を挙げると、一般的な裁判所の基準は以下のとおりの金額となります。
1級 2,800万円
2級 2,370万円
3級 1,990万円
4級 1,670万円
5級 1,400万円
6級 1,180万円
7級 1,000万円
8級 830万円
9級 690万円
10級 550万円
11級 420万円
12級 290万円
13級 180万円
14級 110万円
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ってしまったことにより働けなくなった(労働能力が低下した)ため、失われてしまった将来の収入のことです。
原則として、就労可能年齢である67歳までの減収分を、まとめて請求することができます。
後遺障害逸失利益を計算するときには、後遺障害の等級ごとに定められた「労働能力喪失率」を使って計算します。
後遺障害の等級が高くなればなるほど、原則、労働能力喪失率が上がるので、高い等級の後遺障害が認定されると、後遺障害逸失利益の金額も上がります。
各等級の労働能力喪失率は、以下のとおりとなっています。
1級 100%
2級 100%
3級 100%
4級 92%
5級 79%
6級 67%
7級 56%
8級 45%
9級 35%
10級 27%
11級 20%
12級 14%
13級 9%
14級 5%
後遺障害逸失利益の計算式
後遺障害逸失利益の計算式は、以下の通りです。
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
ライプニッツ係数とは、将来の収入を先に一括で受けとることによって発生する「中間利息」と差し引くための特殊な係数です。
逸失利益を算定するために必要な数値だと理解すると良いでしょう。
逸失利益の金額は、ケースによって大きく異なります。
後遺障害の等級が高く、事故当時の年齢も若かった人などの場合、億単位の高額な逸失利益が発生することもあります。
もっとも、上述した労働能力喪失率というのはあくまで例示であって、裁判で争われた場合など、必ずしも後遺障害の等級に応じた労働能力の喪失率が認められるというわけではありません。
場合によっては労働能力の喪失が一切認められないこともあります。
後遺障害等級認定申請
以上のように、交通事故の被害に遭って後遺障害の認定を受けることができたら、高額な後遺障害慰謝料はもちろん、後遺障害逸失利益を請求できる可能性があるので、請求できる賠償金の額が大きく上がります。
交通事故で後遺症が残った場合、それが自賠責法施行令別表第一及び第二にて定められる後遺障害にあてはまるものかどうかを検討し、あてはまる可能性があれば、速やかに後遺障害等級認定申請をすることが重要です。
後遺障害等級認定を受ける方法
後遺障害等級認定を受けるためには、具体的にはどのような方法をとればよいかご説明します。
後遺障害の等級認定は、損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)で行います。
後遺障害等級の認定申請を行う方法には、被害者本人が自ら申請する「被害者請求」による方法と、加害者の任意保険会社が請求を代行する「加害者請求」による方法があります。
なお、「加害者請求」は一般的に「事前認定」と呼称されています。
被害者は事前認定を利用することが多い
一定の後遺障害が残り、治療を続けてもそれ以上は回復しないもしくはさほど回復の効果が見込めない状態を症状固定と言います。
症状固定後、後遺障害等級認定の申請を行うことになりますが、一般的には、相手方の保険会社が行う事前認定を利用することが多いです。
そもそも、被害者請求の方法を知らない被害者の方も数多くいます。
事前認定では後遺障害認定の手続きを、事故の相手方である加害者の保険会社に任せてしまうことになりますが、被害者側が行う被害者請求と加害者側が行う事前認定では、被害者請求の方が後遺障害と認められる可能性が高いといえます。
これには様々な理由が考えられますが、理由の一つとして、自賠法の立法趣旨が被害者の救済を図るものであること、そのため事前認定より被害者請求を取る方が、その立法趣旨に適うことが挙げられます。
そしてもう一つの理由として、被害者の方から依頼を受けた弁護士は、一般的に被害者の利益を守るため、相手方の保険会社よりも後遺障害の申請に向けて活動します。
弁護士は、事案によって事前認定か被害者請求の選択をする
弁護士が後遺障害等級の認定申請をするときは、当該事案についての検証をよく行い、必要であれば被害者請求の方法で申請をすることがあります。
被害者請求の場合、弁護士が手続きを進めるので、手続きの透明性が保たれて安心です。
それだけではなく、被害者側の裁量で、被害者に有利な資料(医師の意見書など)を追加提出することなども可能となり、後遺障害の認定を受けられる可能性が高くなります。
また、事前認定の場合でも被害者請求の場合でも、後遺障害が非該当となったり、予想より低い等級になってしまったりしたときは、異議申し立てをおこなうことにより等級変更が認められる場合もあります。
もし事前認定をおこなって、後遺障害の認定を受けられなかったケースでも、あきらめずに弁護士に相談すれば、認定結果を覆すことができる可能性があります。
※事案によります。
最後に
交通事故の被害に遭って身体や精神に後遺症が残った場合、後遺障害の認定を受けることによりはじめて、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求が可能になります。
そのため、後遺症が残った方にとって、後遺障害の等級認定を受けることは非常に重要です。弁護士法人いろはでは、後遺障害等級認定手続きにも精通しておりますので、交通事故に遭われて後遺症が残りお困りの方は、まずは一度ご相談ください。