交通事故の基礎知識

外国人との間で交通事故が起きたらどうする?

外国人との間で交通事故が起きたらどうする?

交通事故は日本国内のいたるところで発生しており、いつどんな国籍の相手と事故が起きるかはわかりません。昨今は外国人の人口も益々増加しており、日本国内においても外国人との間で交通事故が起きることは決して珍しくありません。

交通事故を起こして加害者となってしまったが、被害者が外国人であった、または外国人の加害者から怪我を負わされてしまったため賠償を請求したい等といった場合、日本人同士の交通事故と比較してどのような違いが生じるのでしょうか。

本稿では、日本国内で外国人との間で交通事故が起きた場合の諸問題について、解説してまいります。

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外国人が日本で自動車を運転できる場合

そもそも、外国人が日本で自動車を運転できるのはどのような場合でしょうか。

外国人が日本で運転免許証を取得した場合は勿論ですが、道路交通に関する条約(ジュネーブ条約)に基づいて国際運転免許証を有している場合、又はエストニア共和国・スイス連邦・ドイツ連邦共和国・フランス共和国・ベルギー王国・モナコ公国・台湾の免許証(政令で定められた者が作成した日本語による翻訳文が添付されているものに限ります。)を有している場合でも、外国人は日本国内で自動車を運転することができます。

どの国の法律が適用されるか

外国人との間で交通事故が起きた場合、外国人の本国の法律と日本の法律、どちらが適用されるでしょうか。

この点に関して日本では、外国が絡む法律問題に対してどの国の法律が適用されるかというルールを「法の適用に関する通則法」という法律により定めています。

そして交通事故のような不法行為については、同法第17条により、原則として「結果が発生した地」の法によるものとされています。

交通事故の場合は、「結果が発生した地」は事故発生地と考えられます。したがって日本国内で発生した事故であれば、相手方が外国人であった場合でも、原則として日本の法律が適用されるということになります。

外国人が被害者である場合の損害について

外国人との間で、日本国内で発生した交通事故については、日本の法律が適用されることになります。

しかし具体的な損害賠償金額の観点からは、被害者が外国人であるために特有の問題が生じることがあり、必ずしも日本人同士の交通事故と同じ結論にはなりません。

外国人が日本国内で治療を受けた場合、治療費や入通院期間に基づく傷害慰謝料は日本人と同様に考えられますが、外国人の場合には本国での治療費や渡航費等が生じることもあります。

また、死亡慰謝料や休業損害等の算出についても、日本人とは異なる考え方が必要となることもあります。以下、各損害項目について解説していきます。

本国での治療費及び渡航費

外国人が被害者である場合は、日本国内ではなく、本国で治療を受けるというケースも考えられます。

本国での治療となると、日本国内の一般的な治療とは、当然その内容や費用も異なる上、渡航費も別途必要となります。

裁判例では、本国での治療費についても必要性や相当性を考慮した上で、損害として認めているケースがあります。

本国での治療費が損害として認められた裁判事例

例えば、頚椎捻挫等の障害を負った韓国人が、当時妊娠中であったためにX線撮影や投薬等が受けられなかったことから、韓国に帰って漢方治療を受けたという事例では、鑑定嘱託の結果に基づき、漢方治療の必要性と相当性を認め、結果として100万円余りの本国における治療費を損害として認めました(東京地方裁判所平成10年1月28日付け判決)。

もっとも、渡航費については、被害者が韓国で受けた漢方治療は、日本でも受けられないというものではなく、被害者の症状についても母親の看護等を受けるため帰国する必要がある程度に悪かったとまでは認めがたいとして、帰国費用については損害として認めませんでした。

本国への渡航費が損害として認められた裁判事例

一方で、パキスタン籍の被害者が日本の医師の勧めでパキスタンへ帰国し、現地で精神科医の治療を受け、再来日した際には部分寛解まで回復したことから、日本とパキスタンの往復航空運賃を交通事故と因果関係のある損害と認めた事例(東京地方裁判所平成8年8月27日付け判決)もあります。

外国人の本国での治療費及び渡航費が損害として認められるためには、いずれも症状や治療経過等の具体的な事情を考慮し、必要性と相当性が肯定される場合と考えられます。

本国からの家族の渡航費

交通事故による受傷が原因で、本国にいる家族による看護が必要となった場合、家族の渡航費が損害として認められることがあります。

過去の裁判例では、幼い子どもがいる日本在住の中国人が、頭部外傷等の傷害を負い、身体表現性障害として後遺障害14級が認められた事案で、家事・育児を手伝うため中国から来日した同被害者の母親の渡航費15万円余を認めた事例がありました。(東京地方裁判所平成27年3月31日付け判決)

また、日本在住の妊娠中の韓国人が、頚椎捻挫等の傷害を負ったために、その両親が韓国から来日した事案につき、その体を気遣い、事故直後の看護や身の回りの世話をするため、少なくとも両親のうち一名が来日することは本件事故による負傷と相当因果関係のある損害として、一人分に限り渡航費を認めた事例(東京地方裁判所平成10年1月28日付け判決)があります。

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、被害者が死亡した場合に被った精神的苦痛に対して認められる損害項目です。死亡した本人に認められる死亡慰謝料と、その近親者に認められる死亡慰謝料がそれぞれあります。

この死亡慰謝料について、被害者が日本人である場合の裁判所の基準は、被害者が一家の支柱(被害者の世帯が主に被害者の収入によって生活を維持している場合をいいます。)の場合には、2,800万円(本人分及び近親者分を含む)、それ以外の場合には2,000万円~2,500万円とされています。

ところが、被害者が外国人の場合には、被害者の本国の所得水準や生活水準といった点も考慮されます。被害者が生活水準の低い国の外国人である場合、日本人の場合と比較して低めに算定される傾向にあります。

過去の裁判例ではスリランカ籍の外国人が死亡した事案で、遺族がスリランカの国籍を有し、将来もスリランカを生活の基盤とすることが予測される場合に、同国と日本とでは貨幣価値におよそ10倍近くの相違があるという経済的事情を踏まえ、死亡慰謝料として500万円を認めた事例があります(東京高等裁判所平成13年1月25日付け判決)。

休業損害及び逸失利益について

「休業損害」とは、事故による受傷や治療のために休業し、又は稼働が制限された場合に生じた収入減としての損害です。

また「逸失利益」とは、症状固定後に後遺障害が残ったことで将来の稼働能力が低下することについての損害です。

いずれも交通事故がなかった場合に、どれだけの収入が得られたかという観点から算出される損害であり、事故前の収入等に基づき算定されます。

外国人が被害者の場合には、当該外国人の在留期間や本国での所得水準等の具体的な事情もプラスアルファで考慮する必要があります。

永住者の場合等

日本に永住する資格を有している外国人の場合には、休業損害及び後遺障害による逸失利益のいずれについても、日本人と同様に算定されます。

裁判例では、永住資格を有するブラジル国籍の溶接作業員の左足関節の可動域制限(12級7号)等の後遺障害が認定された事案で、症状固定後に日本で職を探すも傷害のため長続きせずブラジルに帰国したという事情はあるものの、永住資格を有し相当長期間日本で仕事をすることが予定されていたとし、事故前年の収入を基礎に20年間分の逸失利益が認められた事例(名古屋地方裁判所平成25年3月27日付け判決)があります。

一時的な就労者の場合

就労可能な在留資格を持っており、一時的に日本に滞在し将来出国が予定される外国人の場合は、予測される日本での就労可能期間内は日本での収入に基づきます。そして就労可能期間後は、想定される出国先での収入等を基礎として休業損害や逸失利益が計算されます。

日本における就労可能期間は、その外国人の来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素から認定されるとされています(最高裁判例平成9年1月28日付け判決)。

一時的な就労者の裁判例1

「日本人の配偶者等」の在留資格で就労中、事故で下肢運動知覚麻痺等(併合5級)の後遺障害が残った日系ブラジル人の休業損害及び後遺障害逸失利益につき、将来ブラジルでコンビニエンスストアを開店するための資金を貯めることを目的として来日したことを考慮して、休業損害及び症状固定から5年間は日本における実収入を基礎に、その後67歳まではブラジルにおける最低賃金の4.5倍を基礎として算定した事例(岐阜地方裁判所御嵩支部平成9年3月17日付け判決)があります。

一時的な就労者の裁判例2

在留許可を得て日本に一時滞在していた中国人システムエンジニアの逸失利益について、日本の会社に入社してから約3年半が経過していること、その間に中国人女性と結婚し、同女とともに日本で生活するようになっていること、来日の翌年である平成19年の給与所得が25歳にして257万4,317円であるところ、これは中国におけるシステムエンジニアの平均年収の3倍にもなることなどからすれば、原告が永住者として日本で生活し続けたいと思っていることが窺え、その気であれば、永住者の資格を取得することにそれほど困難があるとも考えられず、被害者がこのまま日本において稼動し続けることのできる蓋然性は高いとして症状固定時の26歳から67d歳までの41年間仕事を続けることを前提に、日本人男性の平均収入等を考慮して逸失利益が算定された事例があります(名古屋地方裁判所平成22年9月10日付け判決)。

一時的な就労者の裁判例3

短期滞在の在留資格で来日し、在留期間経過後も不法に残留して就労していた外国人が労災事故によって後遺障害を残す負傷を負った事案につき、最終的には退去強制の対象となることを免れないことから、日本国内における就労可能期間を3年~4年程度に限定して認めた事例もあります(最高裁平成9年1月28日付け判決)。

外国人が加害者である場合

被害者が日本人で加害者が外国人である場合でも、日本国内で発生した交通事故であれば日本の法律が適用されます。したがって、日本人同士の交通事故と同様に、被害者である日本人は、加害者である外国人に対して損害賠償請求が可能です。

この場合、加害者が外国人であるということで、法的に認められる賠償金額が増減するということは基本的にはありません。もっとも、加害者側が外国人である場合に問題となりやすいのは、法的に請求可能な損害金を現実的に回収することができるかという点だと思われます。

加害者側が日本の任意保険に加入している場合には、任意保険会社を通じて賠償を受けられるため特段問題となりませんが、任意保険に加入していない場合には要注意です。

加害者が任意保険に未加入であった場合に、賠償金の回収可能性が問題になるのは何も外国人特有の問題ではありませんが、外国人である場合には、それに加えて言語の問題、そして帰国されるリスクから、より一層注意が必要となります。

本国へ帰国してしまった加害者に対し、強制的に賠償金を回収するために必要となる労力や費用の問題の壁は高いものです。加害者側の保険関係や連絡先の確保のみならず、ご自身が加入されている人身傷害保険を始めとする、他に利用できる保険関係を確認する必要があります

最後に

以上、説明してまいりましたとおり、外国人との間で交通事故が生じた場合、治療費からして考え方が異なるケースがあるなど、賠償額の算定には専門的な知識がなければ対応できません。

損害の回収方法も早期・適切に決定する必要がありますので、お早めに専門家にご相談されますことを推奨いたします。

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