交通事故の後遺障害とは?等級認定を受けて必要な補償を受け取る方法を解説
この記事の目次
はじめに
この記事では,まず交通事故における後遺障害とは,そもそもどのようなものかを整理して解説します。後遺障害という言葉は交通事故の分野でよく使われますが,実際の定義について知らない方も多いと思いますので,正確に解説させていただきます。
また,後遺障害には等級という後遺障害の分類がありますので,どのような後遺障害があるのかも見ていきましょう。そして,不幸にも後遺障害が残ってしまった場合の認定手続の方法や賠償金額についても説明いたします。
ご自身が交通事故の被害に遭い,怪我が治らなかった場合の参考にしてみてください。
交通事故における後遺障害とは
後遺症との違い
交通事故における後遺障害のことを「後遺症」と呼ぶ方が多くおられます。交通事故で受傷しても,治療によって事故前の状態に回復することも多いですが,不幸にも完全に回復せず,身体や精神の機能に不完全な状態が残る場合があります。
このような身体や精神の不調を一般的な言葉として「後遺症」と呼んでいます。他方で,交通事故の損害賠償の分野で呼ばれる「後遺障害」とは,
①治療が終了したにも関わらず残存する障害があること
②その障害が将来においても回復が困難と見込まれる精神的または身体的なものであること
③その存在が医学的に認められること
④労働能力の喪失を伴うもの
と説明されています。
後遺障害が残った場合は,その認定を受ける必要があること
上記のように,交通事故の被害に遭い後遺障害が残った場合は,それだけで当然に補償をしてもらえるということにはなりません。
実際に後遺障害が残ったということを客観的に認定してもらう必要があり,認定してもらって初めて,どの部分にどのような(何級か)後遺障害が残ったのか,その認定してもらった後遺障害に対する補償の話に進んでいきます。
たまに治療が終わって痛みが残存しているにもかかわらず示談をしてしまったり,後遺障害の認定手続きについて知らずに悩んでいる方もおられますので,以下を参考にきちんと認定手続きに進んでください。
交通事故における後遺障害の等級について
さて,現在の交通事故における後遺障害の分類は,最重度の1級~最軽度の14級までの14段階で整理されています。詳細は下記の「自動車損害賠償保障法施行令 別表第1・2」をご参照ください。
別表右端の保険金額とは,自賠責保険会社から支払われる自賠責基準の保険金額を指します。なお,それぞれの後遺障害の具体的な内容や審査基準は弊所ホームページの別の記事をご参照ください。
後遺障害が認定された後の慰謝料について
交通事故で後遺障害が残った場合には,それだけで多大な精神的苦痛を伴います。将来にわたって回復困難で,労働能力の喪失を伴う障害が残るため当然のことです。そして,この精神的苦痛を慰謝料として加害者へ請求することとなります。
後遺障害の慰謝料金額には上記自賠責基準額の外に,下記表のとおり裁判所(大阪地裁)が後遺障害慰謝料について基準(目安)を設けております。
(交通事故には3つの賠償基準が存在しますが,この点についても重要なので,別の記事をご参照ください。)。
下記表の金額は,あくまで「基準」ですので,すべての事案で画一的に決められているものではありませんが,下記表の金額を超える後遺障害慰謝料を請求する場合はそれ相応の特殊な事情が必要となります。
【大阪地裁における交通損害賠償の算定基準表】
等級 | 慰謝料額 |
1級 | 2,800万円 |
2級 | 2,400万円 |
3級 | 2,000万円 |
4級 | 1,700万円 |
5級 | 1,440万円 |
6級 | 1,220万円 |
7級 | 1,030万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 670万円 |
10級 | 530万円 |
11級 | 400万円 |
12級 | 280万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
このように,最重度の1級の交通事故による後遺障害の慰謝料は2800万円です。他方で,最軽度の交通事故による後遺障害の慰謝料は110万円となります。
相談機会が多い打撲・捻挫(むちうち)による後遺障害は,通常,14級若しくは12級となり,14級の後遺障害が残った場合は110万円,12級の後遺障害が残った場合は280万円の慰謝料が認められます(交通事故による後遺障害14級と12級の違いは別の記事をご参照ください)。
気を付けていただきたいのは,上記表の金額は交通事故による後遺障害の「慰謝料」のみの金額です。これとは別に,後遺障害が残った場合には,将来の労働能力喪失について,補填してもらう必要があります。これを「逸失利益」といいますが,この逸失利益はまた別の計算方法で,上記後遺障害の慰謝料とは別の損害項目として請求することとなります。
他方で,先ほど指摘しました自動車損害賠償保障法施行令の 別表1,別表2の表に記載の自賠責保険金額は,「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」を合わせた金額ですので,ご注意ください(それだけ,後遺障害の点について,自賠責保険基準と裁判基準は大きな差があります)。
交通事故による後遺障害の等級認定を受ける方法
交通事故による後遺障害の等級認定を受ける方法には大きく2つの方法があること
交通事故によって受傷し,治療が終了し,症状固定(症状が一進一退でこれ以上治療をしたとしてもよくなる見込みがないか少ないこと)となった後,実際に後遺障害の認定手続に進むことになります。
交通事故によって後遺障害が残るか否か,そして後遺障害が残る場合には何級に該当するかを審査するのは「損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)」という組織です。自賠責調査事務所と言わることが多いこの組織は「損害保険料率算出団体に関する法律」という法律に基づき設立された第三者機関です。
よく勘違いされる人が多いのですが,交通事故による後遺障害の認定は,主治医が行うものではありません。主治医の意見として,「後遺障害が残っているでしょう」とあったとしても,認定する機関は,医師ではないのです。
それでは,実際に自賠責調査事務所へ後遺障害の認定をお願いする方法について,以下,2つの方法がありますので説明します。
事前認定の進め方
まず,後遺障害の事前認定とは,被害者であるあなたから見て相手方(加害者側)の任意保険会社が,後遺障害等級認定の申請に必要な全ての手続を行います。
あなたが主治医に作成してもらった後遺障害診断書を相手方保険会社に郵送することから始まり,その後,相手方保険会社は,あなたから医療記録を取り付けることを承諾する同意書と取り寄せた上で,診断書・診療報酬明細書,レントゲン・MRI撮影画像等をあなたに代わって取得して,自賠責調査事務所に後遺障害の審査をお願いすることとなります。
弁護士に委任していない一般の方々は,下記のとおり被害者請求の制度を知らなかったり,知っていても,任意保険会社に任せておけば,すべて手続を行ってくれるため,審査手続の負担が軽減されますので,この方法で後遺障害の審査手続をお願いしているケースは非常に多いと感じています。
被害者請求(16条請求)の進め方
次に,上記事前認定とは異なり,交通事故による後遺障害については,被害者自身が,直接自賠責保険会社に後遺障害審査請求を行う方法があります。これを被害者側が後遺障害の審査を直接請求することにちなんで「被害者請求」と言われています。
また,この請求は,下記記載の自動車損害賠償保障法の16条を根拠とされていることから,「16条請求」と呼ばれることもあります。 (自動車損害賠償保障法の16条) 第3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。
この被害者請求は,被害者自身で後遺障害診断書だけではなく,診断書・診療報酬明細書,レントゲン・MRI撮影画像等を取り付けて,さらに相手方の自賠責保険会社から,自賠責保険金請求書類を取り寄せて,保険金請求書に必要事項を記入するなど,その後遺障害の審査手続を全て自分で行う必要があります。
事前認定と被害者請求の違い
ところで,後遺障害の審査について,事前認定か被害者請求かは,単なる手続の違いにすぎません。どちらの手続を取ったとしても,結論が大きく変わることはありません。後遺障害の審査で適切な等級を獲得するための大切なことは,手続より中身です。
確かに,後遺障害の事前認定は,全ての手続を相手方任意保険会社が行うため,被害者に有利な資料をわざわざ提出ことは考えられませんし,逆に不利な資料があれば,必ず提出するでしょうから,この点はデメリットではあります。
しかし,この点も,弁護士に依頼されている場合は,弁護士が後遺障害診断書の内容を確認し,適切な内容となっているかをチェックした上で,被害者に有利になるよう意見書を作成して,事前認定手続を進めることで,自賠責調査事務所は,この意見書も確認しますので,後遺障害の認定に不利になることはないと思います。
後遺障害の等級認定を受ける際に注意すべき点
後遺障害診断書の作成と作成のタイミング
まず,交通事故の後遺障害の審査にあたっては,「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」の内容が最も重要です。作成するタイミングは,治療が終了し,主治医から症状固定の判断が出た後,主治医にお願いして作成してもらいます。交通事故で負った後遺障害の等級認定に必須な書類で,主治医の先生が記入し,自賠責調査事務所がその内容を見て,等級認定を行います。
医学的所見の重要性
次に,後遺障害診断書に「精神・神経の障害 他覚症状および検査結果」を記載する欄があります。この欄は後遺障害について,医学的な所見があるかどうかを記載する項目です。この医学的所見の有無は,後遺障害の等級認定に最も重要な項目です。
レントゲンやMRI画像にどの様に写っているか以外にも,神経学的テストを行い,その検査の結果に異常があったり,陽性がでた場合は,その結果についても詳細に記載して頂きましょう。
自覚症状の取り扱いについて
さらに,後遺障害の審査にあたっては,自覚症状の内容も重要なチェック項目の一つです。これは,医師の見解ではなく,被害者自身が医師に申告した自覚症状を医師が後遺障害診断書の「自覚症状」欄に記載します。痛み,しびれをどの様な時にどの様に感じるのか,また,日常生活における支障等を中心に記載してもらいましょう。
その際,症状が「常時」存することが,後遺障害の認定にとっては,特に重要となりますので,「雨天時」,「寒くなると」,「夕方」等の限定的な痛みは,後遺障害に該当しない可能性が高いです。
交通事故の後遺障害の審査請求や認定を受けた後の交渉は弁護士に任せるべきです
ところで,これまで見てきましたとおり,後遺障害の定義やその等級,後遺障害診断書の適切な内容や請求方法については,一般の方には馴染みがなく,とても複雑です。また認定を受けた後も保険会社との交渉という負担が待っています。
以下,交通事故の後遺障害の請求段階からは,弁護士に任せた方が良いことについて,説明します。
後遺障害の適切な等級を獲得することができます
交通事故の怪我といってもその種類は多種多様で,打撲捻挫にとどまるもの,骨折を伴うもの,痛みだけではなく,関節の可動域が制限されているもの,顔や四肢に醜状が残るもの,脳機能に障害が残るものなど,狙うべき適切な後遺障害もたくさんあります。
ご自身に残った痛みや障害が,実際にどの後遺障害に該当しそうか,そして,該当しそうな後遺障害を獲得するためには,後遺障害診断書の内容を充実さえる等,しっかりと準備が必要です。かなり難しい作業になりますので,専門家である弁護士に任せるべきです。
特に,後遺障害は認定されるかされないか,で賠償金額が大きく変わりますので重要です。
交渉がスムーズに進められます
後遺障害の認定を受けた後,それで被害の賠償が完了するわけではありません。認定された後遺障害を前提に,保険会社と実際に受領する金額について示談交渉をすることとなります。
しかし,保険会社から提案を受けた慰謝料の金額が適切なのかどうか,そして,後述する逸失利益の点は非常に専門的です。
これらの点について,一般の方々が交通事故交渉のプロである保険会社と対等に行うことは困難を極めます。
保険会社とのやりとりは弁護士が行います
これについては,弁護士に依頼された場合は,交渉の窓口が被害者から弁護士に代わり,適切な賠償金を獲得するために,交渉をスムーズにすることができます。
弁護士が被害者の代理人となりますと,保険会社は被害者自身へ直接連絡することがなくなり,全て,弁護士を通すこととなります。
後遺障害の認定を受けて辛い思いをされている中,さらに交渉までご自身で行う事は非常に精神的な負担を伴います。この交渉の負担は,弁護士が解放することができます。
適切な後遺障害の賠償を受け取る事が出来ます
また,別の記事でも説明しましたが,弁護士が代理人となることで,初めて,被害者は適切な基準による後遺障害の補償を受け取ることができます。
ここでは,簡単な説明にとどめますが,交通事故の損害賠償金額を算定する基準は大きく3つあります。
後遺障害の慰謝料以外の面もサポート致します
後遺障害の認定を得た後は,先ほども説明しましたが,保険会社との交渉が待っています。その際,後遺障害の慰謝料だけではなく,逸失利益,つまり将来にわたって労働能力が喪失するわけですから,その補償を請求しなければなりません。この逸失利益の交渉は後遺障害の慰謝料の金額と同様,一定の基準はありますが,個別具体的な検討が必要です。
例えば,顔に傷が残ってしまい,後遺障害の認定を受けた場合,あなたの労働能力は喪失するでしょうか。このように逸失利益の交渉は一筋縄ではいかず,専門家のサポートがなければ,適正な賠償額を獲得することは困難です。
まとめ
交通事故によって受傷し,治療が終わったにもかかわらず,症状が残っている場合は,安易に後遺障害診断書を保険会社に郵送して事前認定に進むのではなく,まずは,弁護士に相談してください。
弁護士は,事故から症状固定までの治療の流れを確認し,現在被害者が訴えている症状から,どのような後遺障害等級を狙うのかを検討します。その上で後遺障害診断書の内容を充実させ,専門家としての意見書(後遺障害に該当するために有利な材料を抽出して,意見としてまとめて提出する)を作成し,場合によっては,弊所では顧問の整形外科医と連携し,被害者が真に望まれる後遺障害の獲得のため尽力します。
これは,被害者自身では,やはり十分な準備は出来ません。適切な後遺障害の認定を受け,そして,その後もしっかりと裁判所の基準で示談するためにも,是非,一度弁護士にご相談ください。