眼の後遺障害-部位ごとの後遺障害を解説
交通事故において、顔や頭を打ち付けた場合、眼にも異常が生じることがあります。
眼の異常は日常生活に多大な支障をきたすものですが、意外にも事故との因果関係を証明したり、後遺障害の認定を得るにあたっては低くないハードルがあります。
そこで今回の記事では、目に関して設けられている後遺障害と、その認定基準について解説いたします。
事故により目に異常が生じてしまった被害者の方が、どのような点に気を付ける必要があるのか、参考にしていただければと存じます。
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この記事の目次
目のケガの種類について
交通事故のケガにより目に異常が出る場合には、「目」自体を損傷した場合と「脳(頭部)」を損傷したことによる場合があります。
以下では、交通事故により、「目」自体を損傷した場合、「脳」を損傷した場合について、それぞれの代表的なケガ、診断名を紹介します。
「目」自体を損傷するケガ
外傷性視神経損傷
視神経損傷は、視神経が圧迫されて損傷を受ける傷病です。交通事故等の「外傷」によって視神経損傷が起こることを「外傷性視神経損傷」といいます。
自転車やバイク事故により、頭部や顔面に衝撃を受け、特に、まゆげの外側あたりにダメージを受けた場合、視神経が圧迫され損傷される可能性があります。
視神経が損傷を受けた場合、視力障害や視野障害が生じます。
網膜剥離・網膜穿孔(せんこう)
網膜は目に入ってきた映像情報を脳へ伝達する組織であり、網膜剥離とは、その網膜が剥がれてしまう傷病です。
交通事故により強い衝撃が加わった場合には、網膜が裂けてしまい、はがれてしまうことがあります。
網膜穿孔とは、網膜に穴が空いてしまうことをいい、これが悪化すると、網膜剥離に発展してしまいます。
網膜剥離が生じた場合には、視力障害や視野障害が発生し、悪化すると失明の危険があります。
眼窩底骨折
「眼窩」とは、眼球の周辺部の骨のことです。眼窩の骨は薄いので、交通事故の衝撃により、比較的簡単に折れます。
眼窩には、多数の骨が集まっていますが、どの骨が折れても眼窩底骨折となります。
眼窩を骨折すると、著しく視力が低下したり、ものが二重に見えてしまう「複視」になるケースがあります。
眼球破裂
眼に鋭利なものが突き刺さる等により、眼球を覆う角膜の一部が破れてしまう症状です。
眼球を損傷すると、視力低下、失明、眼球の異物感、光がまぶしくなる等の症状が生じます。
眼球破裂の治療のために水晶体を摘出すると、眼球の調整機能が失われ、調節機能障害が起こることがあります
「脳(頭部)」を損傷するケガ
頭蓋底骨折
交通事故により直接目を負傷しなくても、目に障害が発生することがあります。その一つとして、頭蓋骨の底の骨である頭蓋底が骨折するケースがあります。
頭蓋底は眼の下の部分に位置し、周囲に視神経があります。
そのため頭蓋骨を骨折すると、視神経にダメージを受け、視力障害や調整機能障害、視野障害等を起こす可能性があります。
外傷性脳損傷
目に直接ケガをしなくても、眼に障害が発生するケースとして、外傷性脳損傷があります。これは、交通事故により脳を損傷するケースです。
脳には視覚をつかさどる部分があり、その部分を脳損傷によって傷つけられることがあります。症状としては、視力低下や失明などの症状が発生する可能性があります。
目の後遺障害について
交通事故により目を負傷した場合、治療を行っても完治に至らず、後遺障害が残ってしまう可能性が高いです。
目に関する後遺障害としては、眼球に関するものとして、視覚障害、調節機能障害、運動障害、視野障害があり、まぶたに関するものとして、まぶたの欠損障害、まぶたの運動障害があります。
これらの後遺障害について、以下で具体的に説明していきます。
視力障害(視力の低下)
失明や視力の低下といった症状について、後遺障害の等級認定がされます。
「失明」とは、①眼球を失ったもの、②明暗を判断できないもの及びようやく明暗がわかる程度のものとされています。
明暗が分かるかどうかは、光覚弁(暗室で、対象者の眼前で照明を点滅させて明暗を弁別できる能力)、手動弁(対象者の眼前で手を上下左右に動かして動きの方向を弁別できる能力)で、判定されます。
視力の測定は、原則として万国式試視力表(アルファベットのCのような、一部に切れ目がある黒い環を見せて、その切れ目の方向を答えさせるもの)によります。
視力の測定方法は、矯正視力(眼鏡やコンタクトレンズによって得られた視力を含む。)で行われ、矯正が不能な場合は裸眼視力によります。
視力障害における後遺障害は、いくつか種類があります。以下で表にまとめましたので、等級や要件を確認してみてください。
等 級 | 後遺障害の認定基準 |
1級1号 | 両眼が失明したもの |
2級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの |
2級2号 | 両眼の視力が、0.02以下になったもの |
3級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの |
4級1号 | 両眼の視力が0.06以下になったもの |
5級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
6級1号 | 両眼の視力が0.1以下になったもの |
7級1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの |
8級1号 | 1眼が失明し、又は1眼の視力が0.02以下になったもの |
9級1号 | 両眼の視力が、0.6以下になったもの |
9級2号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
10級1号 | 1眼の視力が0.1以下になったもの |
13級1号 | 1眼の視力が0.6以下になったもの |
調節機能障害(目の調節機能の低下)
調節機能とは、ピントを合わせる機能です。目は、近くを見るときは「水晶体」と呼ばれる部分を厚くし、遠くのものを見るときは「水晶体」を薄くして、ピントの調節をしています。
目の調節機能障害は、この調節機能が制限されてしまうことをいいます。
この調整機能障害は、以下の表のように「眼球に著しい調節機能障害を残す」か否かによって判断します。
「著しい調整機能障害」とは、症状が出ていない方の眼と比較して、調整力が1/2以下となっているものをいいます。
等 級 | 後遺障害の認定基準 |
11級1号 | 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
12球1号 | 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの |
調節力は、遠点から近点に注視を移した時に増加する水晶体の屈折力を、レンズをもって表したものをいい、近点の屈折力から遠点の屈折力を引いて求めます。
遠点とは、眼が調節をしていない時に明視できる点をいい、近点は最大に調節したときに明視できる最も近い点をいいます。
こうして求められた調整力は、「ジオプトリ(D)」という単位で表されます。したがって、後遺障害の認定のためには、調整力の検査を受け、両眼のジオプトリの値を確認しておく必要があるのです。
なお、両眼とも症状が出ている場合には、調整力が「通常の1/2以下」に低下していることによって判断されます。つまり、「両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、いずれの眼の調整力についても、調整力が通常の1/2以下に低下していることをいいます。
ここにいう「通常」とは、年齢と調整力の関係を日本人の年齢別調整力値が用いられます。ご参考までに、この年齢別調整力値を以下にお示しします。
年 齢 | 調整力(D) | 年 齢 | 調整力(D) |
15歳 | 9.7 | 45歳 | 3.1 |
20歳 | 9.0 | 50歳 | 2.2 |
25歳 | 7.6 | 55歳 | 1.5 |
30歳 | 6.3 | 60歳 | 1.35 |
35歳 | 5.3 | 65歳 | 1.3 |
40歳 | 4.4 |
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ちなみに、1.5ジオプトリ以下の場合には、実質的には調整機能が失われていると評価されます。
そして、目の調節機能は年齢とともに失われ、55歳の段階で1.5ジオプトリまで低下するとされています。
そのため、被害者の方のご年齢が55歳以上の場合、両方の眼に調整機能障害が生じても、後遺障害としては評価できないこととされているため、注意が必要です。
運動障害(眼球の運動に関する障害)
眼球の運動は、それぞれの眼で3対(両眼で6つ)の外眼筋の作用によって行われています。
外眼筋は、一定の緊張を保って眼球を正常な位置に保たせているので、そのうちの1つあるいは複数が麻痺した場合は、麻痺性斜視となり、眼球の運動が制限されることになります。
その結果、視野が狭くなったり、複視(ものが二重に見える状態)の症状が生じたりします。
等 級 | 後遺障害の認定基準 |
10級2号 | 正面を見た場合に複視の症状を残すもの |
11級1号 | 両眼に眼球に著しい運動障害を残すもの |
12級1号 | 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの |
13級1号 | 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの |
「複視の症状を残すもの」とは、つぎの基準によって判断されます。
「複視の症状を残すもの」と判断される基準
- 本人が複視のあることを自覚していること
- 眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
- ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること
ヘススクリーンテストによって、正面視で複視が中心の位置にあれば、「正面を見た場合に複視の症状を残すもの(第10級2号)」となり、それ以外の位置で複視があれば、「正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの(第13級1号)」となります。
ヘススクリーンテスト
ヘススクリーンテストとは、赤い基盤目状のスクリーンを用いた検査です。
被験者は、片方の眼には赤色、もう一方の眼には緑色のレンズがある眼鏡を装着します。赤と緑は補色関係にあり、赤色のレンズを通した眼ではスクリーン上の赤色しか見えず、緑色のレンズを通した眼では緑色しか見えない状態となります。
この状態で、緑色の指標がついた棒を持ち、スクリーン上の赤色の碁盤目の点を正確に指すことができるかどうかを確認します。
このようにして眼位の軌跡を測定し、ヘスチャートと呼ばれる記録紙に表します。ヘスチャート上で、両眼の測定結果を比較し、眼位の縮小・拡大が明らかであれば、外眼筋が麻痺している可能性を示す有力な証拠となります。
「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」とは
「両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが1/2以下に低下していることをいいます。
「注視野」とは、頭部を固定し、眼球を動かして直視することができる範囲をいいます。注視野は、単眼視では各方面約50度、両眼視では各方面約45度です。
視野障害(視野が狭くなる障害)
「視野」とは、目の前の1点を見つめて同時に見える外界の広さを言います。視野障害については、次のように後遺障害等級と認定基準が定められています。
なお、認定基準にいう「半盲症」とは、視神経繊維が、視神経交叉又はそれより後方において侵されるときに生じるものであって、注視点を境界として、両眼の視野の右半分又は左半分が欠損するものをいいます。
右眼と左眼のそれぞれの視野が右半分又は左半分しか見えない状態です。また、「視野狭窄」とは、視野周辺の視野が狭くなることをいいます。
「視野変状」には、半盲症、視野欠損、視野狭窄、暗転が含まれますが、半盲症と視野狭窄は障害等級表に明示されているので、ここでは視野欠損と暗点(盲点以外の病的欠損を生じたもの)をいいます。
等 級 | 後遺障害の認定基準 |
9級3号 | 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
13級3号 | 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの |
これらの等級を認定するための視野測定は、ゴールドマン型視野計により行われます
。視野は、指標の色、大きさ、明るさを変えると、その広さが変化します。色では白、赤、緑の順に狭くなり、指標の大きさは大きいほど、明るさが明るいほど、視野は広くなります。
これを利用して、ゴールドマン型視野計検査では、一定の明るさの指標を視野内の周辺から中心に向かって移動させ、それを感じる点を求めていき、同じことを各方向に行い、同じ感度の点を線で結んで、視野の地図を作るものです。
まぶたの欠損障害(まぶたが失われたりする障害)
まぶたが欠けてしまった場合には、次の基準で等級が認定されることになります。
認定基準における「まぶたに著しい欠損を残すもの」とは、普通にまぶたを閉じた場合に、角膜を完全に覆うことができない程度のものをいいます。
「まぶたの一部に欠損を残すもの」とは、普通にまぶたを閉じた場合に、角膜を完全に覆うことができるが、しろめが露出している程度のものをいいます。
また、交通事故によって、まつげ縁(まつげの生えている周縁)の1/2以上にわたってまつげが抜け落ちる等して失われてしまった場合には、「まつげはげを残すもの」として、等級認定の対象となります。
等級 | 後遺障害の認定基準 |
9級4号 | 両眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
11級3号 | 1眼のまぶたに著しい欠損を残すもの |
13級4号 | 両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
14級1号 | 1眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの |
まぶたの運動障害(まぶたの開閉運動についての障害)
まぶたの開閉運動に障害が生じた場合にも、等級の認定基準があります。
認定基準における「まぶたに著しい運動障害を残すもの」とは、普通にまぶたを開けたときに瞳孔領を完全に覆うもの、又は、普通にまぶたを閉じた場合に角膜を完全に覆うことができないものをいいます。
等 級 | 後遺障害の認定基準 |
11級2号 | 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
12級2号 | 1眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの |
さいごに
今回は、交通事故の目の障害について解説いたしました。交通事故により顔面や頭部を負傷し、目の調子がおかしくなった場合には、すぐに、受傷部位に応じて、眼科ないしは脳神経外科の病院を受診し、定期的な治療を継続しましょう。
定期的な治療は、症状の改善にもつながりますし、定期的に治療をしていなければ、そもそも「将来においても回復しない」という後遺障害認定の大前提を認めてもらえない可能性すらあります。
そのため、医師のみではなく、治療段階より交通事故に精通した弁護士と協力し、治療における注意点を把握することも、適切な後遺障害等級の獲得を目指すうえで重要です。後遺障害の等級が、一つ下がるだけでも、賠償額は大きく変わります。目の後遺障害の認定においては、複雑な点が多く、目に異常が生じている被害者の方には、対応が困難でしょう。
実際に後遺障害の等級認定を狙う段階になってから医師や弁護士と相談をすると取り返しのつかない事態が生じているかもしれませんので、早期にご相談されることをお勧めいたします。