損害賠償を減額できる「素因減額」とは
この記事の目次
素因減額について
素因減額とは、被害者が事故前から有していた心因的・精神的な要因や、身体的要因(既往症・身体的特徴)が、当該交通事故の損害の発生や拡大に影響している場合、それらの被害者の要因(素因)を考慮して、損害賠償額を減額することを言います。
法律には「損害の公平な分担」という考え方が根底にあります。
そのため、被害者に日常生活を送っているだけでは通常生じない要素や、精神的な不安定さ等、第三者や加害者が予想することのできない事情があり、そのことが治療期間や休業の必要に関係している場合には、 その損害の一部は被害者側が負担することになります。
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素因減額が認められるケースとは
むちうちにおいても、素因減額が認められることがあります。
裁判例では、他覚的な所見・レントゲン・MRI等が認められないにも関わらず、治療を継続して必要以上に損害額が拡大するケースがあります。
こういったケースでは、「加害者に損害の全額を負担させることは公平を失する」ため、素因減額を認めています。より細かく分析すると、以下のような場合に素因減額が肯定されます。
素因減額がケース例
- 被害者に精神的、身体的要因が存在する。
- そのことが当該事故とともに原因となり、損害が発生、拡大する
- 生じた損害が、通常発生する損害の程度、範囲を超えており、その全ての賠償額を加害者に負担させることが不公平なとき
素因減額が肯定された裁判例
心因的要素が考慮された事案
むちうち損傷について、被害者が事故後10年以上の入通院を継続した事案について、相当因果関係が認められる事故後3年間を経過した日までに生じた損害のうち、4割の限度で損害賠償を肯定した事案(最判S63.4.21)。
この事案では、被害者の特異な性格、加害者の対応に対する被害者の不満などが損害の拡大に寄与しているとして、素因減額をしています。
体質的要素が考慮された事案
むちうち損傷について、事故前に沈静化していた椎間板ヘルニアの症状が事故により再度発症したことを、損害拡大の一要因として、6割の限度で損害賠償を肯定しています(名古屋地判H19.4.27)。
椎間板ヘルニアの症状については、素因減額の要因として、加害者側から主張されることがよくあります。
素因減額が否定された裁判例
首が長いという身体的特徴を有した被害者
「被害者が平均的な体格ないし、通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合は、特段の事情の存しない限り被害者の身体的特徴を考慮しない」(最判H8.10.29)として、素因減額を否定されました。
首が長くこれに伴う多少の頚椎不安定症があるが、個人の個体差の範囲内で疾患とまでは言えないとし、減額は否定されています。
まとめ
以上の裁判例は、あくまで個別具体的な事情のもとでなされたものです。
加害者の対応に不満があり治療が長引いた、あるいは自分には椎間板ヘルニアの既往症があるからといって、常に素因減額がなされるわけではありません。
あくまで、「損害の公平な分担」という視点が重要です。いずれにしても、素因減額が問題となりそうな事案では、事案の正確な理解のためにも、早い段階で弁護士に相談しておくべきと言えます。