駐車場での交通事故について解説
駐車場では自動車が後退発進をする機会も多く、また歩行者と自動車が同一の場所を通行するため、交通事故の発生件数も少なくありません。
このような駐車場特有の事故発生のリスクや、駐車場が一般の道路と違って私有地であることなどから、道路での交通事故の場合と対応が異なることがあります。
この記事では駐車場における交通事故について、どのように対処すべきか、どのように加害者に賠償責任を追及することになるのか、また、賠償の内容にどのような影響があるのか、といったことをご説明いたします。
交通事故でお困りの方への『おすすめページ』
この記事の目次
駐車場での事故は交通事故?
駐車場は私有地ですが、道路での事故と同じように「交通事故」として扱われ、自賠責保険をはじめとした自動車保険は使えるのでしょうか。加害者にはどのような責任が課されるのでしょうか。
駐車場は「道路」として扱われる?
大型ショッピングセンターの駐車場や、コインパーキング等、不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所は、「一般交通の用に供するその他の場所」(道路交通法2条1項1号)とされ、道路交通法が適用される「道路」として扱われます。
判断の基準は、不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所かどうかです。
自宅のガレージや、月極駐車場など、特定の人や車両しか出入することがない駐車場は、一般的に道路交通法の適用を受けません。
自動車保険は使えるのか?
先にみたように、道路交通法の適用を受ける駐車場内の事故は、交通事故として扱われるため、警察への届出を経て交通事故証明書が発行され、人身事故であれば自賠責保険や任意保険、物損事故であれば任意保険が使えます。
一方、道路交通法の適用を受けない私有地としての駐車場内の事故は、交通事故として扱われないため、保険請求時に必要とされる交通事故証明書は発行されません。
しかし、被害者が死傷するような人身事故の場合は、自賠責保険の対象となります(この場合、交通事故証明書の代わりに、人身事故証明書入手不能理由書を提出することになります)。
任意保険は私有地での事故に対する補償の有無は、契約の内容によります。
契約内容や事故の状況によっては補償の対象外となる場合もありますので、ご自身の任意保険の契約内容をしっかりと確認されることをお勧めします。
私有地でも加害者が負うべき責任
私有地か公道かなどの事故発生場所に関係なく、人を死傷させる人身事故が発生したときは、車を運転していた加害者は、自動車損害賠償保障法3条で定められた運行供用者責任を負います。
加害者に注意義務違反等の過失がある場合には、人身事故だけではなく、物損事故も含めて民法709条に定める不法行為責任を負うことになり、被害者に対して損害を賠償する責任が課されます。
人身事故の場合、刑事責任も加害者には問われます。
「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に規定される刑事罰が科されますし、ひき逃げをした場合には、道路交通法72条1項(負傷者の救護義務、警察への報告義務)に違反したとして同じく刑事罰の対象となります。
駐車場で事故に遭った場合の対応
必ず行うべきこと
道路交通法における道路であるか否かにかかわらず、以下を迷わず行いましょう。
事故が起きて必ず行うべきこと
- 警察への通報する
- けが人がいる場合には救護のほか救急車等の要請
- 加入する保険会社への事故の連絡、を迷わずに行いましょう
監視カメラの有無を確認する
また、交通事故においては、後にご説明する過失割合が問題となることがあります。
ドライブレコーダーがあれば、解決を早めてくれることもありますが、駐車場事故の場合には、さらに、周囲に監視カメラがないかも確認すべきです。
これらの監視カメラ映像に事故の様子が映っていれば、過失割合を決する一助となることがあります。
後日、弁護士からの要請によって、映像を提供してもらえる可能性があるため、その場で映像を提供してもらえなくとも、その映像の部分を保存しておいてもらうように要望しておきましょう。
駐車場事故と一般の交通事故の違い
共通点
道路での交通事故と同じく、加害者に対して、治療費や通院の交通費等のほか、休業損害、慰謝料等の人身に関わる損害の賠償を受けることができますし、物損事故の場合は、車や携行品の損害について賠償を受けることができます。
さきほども述べましたが、道路交通法の適用を受ける駐車場では、道路での交通事故と同じく、交通事故証明書の交付を受けることもできます。
相違点
駐車場内は不特定多数の人や車両が出入りする場所であり、信号がなく車の動きも道路と比べて不規則であることから、特に車の運転者には、道路を走行するときに比べて前方注視義務や徐行義務が高度に要求されると考えられています。
また歩行者にとっても、一般の道路以上に周囲の自動車の動きに気を配る必要があります。
このような駐車場において課される注意義務の特性は、事故が発生した際の各当事者間における責任の割合(「過失割合」といいます。)にも影響があります。
※過失割合に関するお役立ち記事は、こちらのページからご覧ください。
そこで、駐車場内での典型的な事故形態に応じた過失割合の考え方を一部紹介いたします(別冊判例タイムズ38「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 全訂5版」)。
駐車場内での事故の過失割合
通路の交差部分での車同士の出合い頭事故
駐車場内の通路の交差部分に進入した四輪車同士が出合い頭に衝突した場合を想定して、過失の考え方をみていきましょう。
駐車場内の通路では、駐車スペースへの進入や駐車スペースからの退出のため、四輪車が向きを変えたり、バックしたりと、様々な動きをすることが想定されます。
通路の交差部分においては、交差部分に入ろうとしたり、交差部分を通行したりしている車は、他の車も同様に通行してくることを想定して、交差部分の安全をよく確認し、状況に応じて他の車との衝突を回避することができるような速度と方法で通行する義務を負うとされます。
そこで、交差部分に進入した車同士の出合い頭の衝突事故については、双方とも同じ程度の注意義務があると考えられますから、原則として双方の運転者は同じ割合の過失責任「50:50」を負うことになると考えられています。
ただし、一時停止の表示があったのに無視したり、進行方向の指示に反する通行を行ったりした場合は、そのような通行をした運転者には、より多くの過失責任があると考えられますので過失割合を修正して考えることになります。
通路通行車と駐車スペースから通路に出る車の事故
駐車場内では、一般の道路と違い、車が通路と駐車スペースとの間を行き来することは当然に予定されています。
そのため、通路を通行する車は、駐車スペースに駐車していた車が、退出のために通路に進入してくることを常に予想すべきですし、そのような車が存在することを想定して、常に安全を確認し、通路の状況に応じて衝突を回避することができるような速度と方法で通行する義務を負うとされています。
一方、駐車スペースから通路に出る車は、停止した状態から動き出すことから、停止している状態では、通路を通行する車よりも容易に通路の安全を確認し、衝突を回避することができるはずです。
また、車が動き出して通路に入る際に、通路を通行する他の車の進行を妨げることになりますから、通路の安全をよく確認し、車の通行を妨げる可能性がある場合は、通路への進入を控える義務を負うと考えられています。
ですから、駐車スペースから通路に入る車の方に、通路を通行する車より、重い注意義務が課されていると考えるため、駐車スペースを退出する車と通路を通行する車の過失割合は「30:70」を基本的な過失割合として考えます。
通路通行車と通路から駐車スペースに入ろうとする車の事故
駐車場は、駐車をするための施設ですから、駐車スペースへの車の進入は、原則として通路を通行する車に対して優先されるべきで、通路を通行する車は、駐車スペースに進入しようとする車を発見した場合には、駐車が完了するまで停止して待機するか、駐車しようとする車と安全にすれ違うことができる程度の距離を確保した上で、注意しながら安全な速度と方法で通行する義務を負うと考えられています。
一方、駐車しようとしている車は、通路を通行する他の車の進行を妨げることになるので、他の車の動きを注視し、通路の状況に応じて他の車との衝突を避けることができるような速度と方法で進行する注意義務があると考えられています。
以上のように、通路を通行する車の方が、駐車しようとする車に比べてより重い注意義務があると考えられているので、一般的に、通路を通行する車と駐車しようとする車の事故は、80:20の過失割合を基本に考えていくことになります。
駐車スペース内での車と歩行者の事故
駐車スペースに出入りする車の運転者は、車の周囲の安全を常に確認し、歩行者の有無にかかわらず、いつでも停止することができる速度で運転し、進行方向に歩行者がいる場合はすぐに車を停止させる義務を負うことから、車の運転者に大きな過失責任があると考えられています。
一方、歩行者の側も、駐車場内は常に車が行き交う場所であるので、車の動きを注意深く観察する義務があります。
そこで、歩行者が車に注意を払っていなかったと考えられる場合には、原則として歩行者にも過失が1割程度あると評価されることがあります。
通路上の歩行者と車の事故
歩行者専用の通路が整備されている駐車場はまだ少なく、車が行き交う通路を歩行者が通行する場面も多々あります。
ですから、駐車場内の通路を通行する車は、歩行者が存在することを常に想定して、歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行する注意義務を負うとされます。
一方、歩行者も、駐車場内の通路を通行する場合には、車が通行することを常に意識して、慎重に進路の安全を確認するべきとされています。
そこで、歩行者にも原則として1割程度の過失があると考えられていますが、歩行者の急な飛び出し等があった場合には、過失割合が修正されて2割程度となることも考えられます。
実際には典型例とはいえない事故が多い
これまで、典型的な駐車場内の事故における、過失割合の考え方を説明してきました。
しかし、実際には、これまでの分類には当てはまらない状況で発生する事故も多く、過失割合は実際の状況に即して個別・具体的に考えざるをえないのが実情です。
まとめ
以上のように、歩行者と自動車が入り交じって出入りする駐車場では、日々多くの交通事故が発生しています。
加害者が負わなければならない被害者への損害賠償責任は、道路での交通事故とほぼ同じですが、契約の内容によっては保険を利用することができない可能性もあります。
また、過失割合の考え方については、駐車場としての特性に応じて注意深く検討する必要があります。過失割合は、最終的に被害者が被った損害額から、被害者の過失分が差し引かれることにもなる重要な要素です。
駐車場で交通事故の被害に遭われた場合、経験が豊富な弁護士に早期に相談することをお勧めいたします。