交通事故の示談金の計算方法と相場 – 弁護士が徹底解説
この記事の目次
はじめに
この記事では交通事故の示談金について,
①そもそも交通事故の示談金とは何なのか?
②交通事故の示談金の相場は?
③交通事故の示談金の計算方法は?
④交通事故の示談金の損害項目(費目)や算定基準は?
⑤交通事故の示談金の請求方法は?
⑥交通事故の示談交渉の流れや進め方は?
といった皆様の疑問点を解説しながら,交通事故の示談金の定義,計算方法,交通事故に遭った時の対応方法などについて,具体例も交えて詳しく説明いたします。
特に,「これから示談交渉を進めていきたいが方法がわからない」「相手方から示談金の提示があったが応じていいのかわからない」「相場や算定方法がわからないので不安」などのお悩みを抱えている方は,ぜひ参考にしてみてください。
交通事故の示談金とは
まず,そもそも交通事故の示談金とは何か?との疑問について解説いたします。
交通事故における示談金とは,一般的には「交通事故によって発生した全ての損害を金銭換算した金額がいくらであるかについて,当事者双方(被害者と加害者)が示談(示談交渉,話し合い)して合意した金額」のことです。
もう少し簡単に言えば,「示談の結果,交通事故によって支払うべき損害賠償金の総額について当事者双方が合意した金額」のことを指します。
ただ,交通事故では「物損」(車両の修理費,代車費用,携行品の損壊などの物的な損害)と「人損」(怪我の治療費,休業損害,通院慰謝料や後遺障害についての損害など,人の生命・身体に関する損害)とを分けて,「物損のみの示談」,「人損のみの示談」というような部分的な示談をするケースが多く,この場合の示談金とは,それぞれ「物損・人損のそれぞれの総額について当事者双方が示談して合意した金額」を指すことになります。
以下では交通事故の示談金とは何かという点に関連して,「そもそも交通事故の示談とは何なのか」「示談金と慰謝料との違いは何か」という点について,掘り下げて解説いたします。
示談とは
まず示談とは,一般的には「民事上の紛争を,裁判手続を利用することなく当事者双方の話し合いによって解決すること」を言います。
交通事故の示談とは,交通事故の損害賠償に関連した様々な争点(過失割合,賠償金の金額,支払方法など)について,裁判手続外で当事者(被害者と加害者)が話し合い,その結果として合意が成立し,解決に至ることを言います。
民法などに記載されている「和解」「和解契約」という言葉も,一般的には「示談」とほぼ同じような意味で用いられていますが,厳密には「和解」では当事者が「互いに譲歩」することが要件とされている(民法695条)のに対し,「示談」ではどちらか一方の請求に相手方が一方的に応じるような場合も含まれますので,被害者と加害者のいる交通事故や刑事事件においては「示談」という言葉がよく用いられています。
示談金と慰謝料の違い
では,示談金と慰謝料との違いは何なのでしょうか。
示談金と慰謝料との違いは,簡単に言えば「慰謝料は示談金に含まれるもの」であり,「慰謝料は示談金の一部」であるということになります。つまり,慰謝料は,後から説明する示談金の構成要素の一部であり,いくつかある示談金の損害項目(費目)の内の一つです。
交通事故における慰謝料とは,交通事故で被害者に生じた損害の内,主に被害者の精神的苦痛に対して支払われるものであり,示談金の損害項目(費目)としては,慰謝料の他にも,例えば,治療費,通院交通費その他の通院関係費,休業損害など複数の項目(費目)があります。
なお交通事故における慰謝料については,以下の記事で詳細に解説していますのでご確認ください。
参考:交通事故の慰謝料相場 – 損をしないための計算方法を解説
交通事故の示談金の相場
次に,交通事故の示談金の相場について解説します。
この記事をお読みになられている方の中にも,交通事故の示談金の相場を知りたいという方が多くおられるのではないかと思いますが,結論から申し上げますと,交通事故の示談金については,どの被害者の方にも一律に当てはまるような固定的な相場はありません。
ですので,例えば相手方の保険会社等から示談金を提示される際に「むち打ちの場合の示談金の相場は○○円」「後遺障害14級の場合の相場は○○円」等との説明をされた方がおられましたら,それは誤りである可能性が高いので注意が必要です。
ただ,どの方にも一律に当てはまる相場が無くても,弁護士に相談すれば,正しい計算方法・算定基準を用いることで,それぞれの被害者の方ごとに個別に適切な示談金の金額を算定することが可能です。
以下では,このような適切な示談金の額を算定するための示談金の計算方法について更に詳しく解説していきます。
交通事故の示談金の計算方法
交通事故の示談金は,これから説明する各損害項目(費目)ごとに算定した金額を合算するという方法で計算します。
そして,各損害項目(費目)の金額の算定にはそれぞれ基準があり,特に慰謝料の算定においては,後から説明する3つの算定基準,
①自賠責保険基準
②任意保険基準
③裁判所基準
によって金額が大きく増減します。
示談金の構成要素-示談金の損害項目(費目)
はじめに―損害項目の分類方法
まず,交通事故の示談金における損害項目にはいくつかの分類方法があります。
例えば,もっとも簡単な分類方法としては「物損」(物的な損害)と「人損」(人の生命・身体に関する損害)とに分ける方法があり,以下では,これに沿って各損害項目を紹介していきます。
他にも交通事故の示談交渉の際に耳にする可能性のある損害項目の分類方法としては,積極損害(事故が起きたことによって出費を余儀なくされた,本来出費する必要のなかった財産の喪失についての損害)と消極損害(事故が起きたことによって得られなくなった,本来事故が無ければ得られたであろう利益の喪失についての損害)とで分ける方法などがあります。
物損の示談金の損害項目
まず,交通事故の物損に関する損害項目を紹介していきます。
車両修理費等
交通事故によって損傷した車両等の修理費です。
通常は,適正な修理費相当額が賠償の対象になりますが,車両が修理不能(修理が著しく困難で買替が相当な場合も含みます)または修理費が事故時の車両価値を上回る場合には,原則として全損と評価し,事故時の時価額の範囲のみが賠償の対象になります。
また,車両の損壊に関連する雑費として,車両の引き揚げ費,レッカー代,保管費などが賠償の対象となる場合もあります。
代車使用料
交通事故により車両の修理又は買替えのために代車を使用する必要性があり,レンタカー使用等により実際に代車を利用した場合に発生した代車使用料です。
発生した代車使用料の全てが賠償の対象になるわけでなく,相当な修理期間または買替期間につき,相当額の対価を基準とした金額のみが賠償の対象になります。
相当な修理期間は1週間から2週間とするのが通例とされていますが,具体的な事情によってはこれよりも長期間認められる場合もあります。
着衣・携行品関係
交通事故により損壊した着衣・携行品についても,具体的な事情に応じて,賠償の対象となることがあります。通常は,時価額相当額(購入価格から減価償却した価格など)が基準とされますが,事情によっては購入価格に近い金額が認められる場合もあります。
その他-評価損,休車損など
その他にも,物損の損害項目としては,評価損(修理しても外観や機能に欠陥を 生じ,または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合の損害),休車損(相当な買替期間中もしくは修理期間中に営業車を使用できないことによって発生する損害)等が挙げられます。
これらは,一般的に示談交渉によって満足な賠償を得ることが困難な場合も多いですが,具体的な事情によっては賠償を得られるケースもございますので,ご相談いただければと存じます。
人損(死亡・後遺障害を除く部分)の示談金の損害項目
次に,人損に関する損害項目の内,死亡・後遺障害事案を除く一般的な損害項目を挙げていきます。
治療関係費
交通事故によるお怪我(傷害)の治療に関連する治療費,入院費,柔道整復(接骨院,整骨院)等の施術費,治療器具代,薬品代などが挙げられます。
治療費及び入院費は,必要かつ相当な実費全額が賠償の対象となります。整骨院・接骨院における施術費等は,医師の指示があった場合または症状により有効かつ相当な場合に,相当額の範囲で賠償の対象となります。
入院雑費
入院の際に要するタオル,ティッシュ,おむつ,エプロンなどの雑費については 通常1日当たりの固定額に入院期間の日数を乗じた金額が賠償の対象となります。
交通費
入退院・通院時の交通費は,実費相当額が賠償の対象となります。但し,タクシー利用の場合は,傷害の内容・程度,交通の便等から見て相当性が認められない場合には電車・バスなどの公共交通機関の運賃のみが賠償の対象となります。
自家用車利用の場合にもガソリン代(距離に応じて1㎞あたり15円程度)を請求することができます。
なお,近親者の付添又は見舞いのための交通費は原則として認められませんが,近親者が遠隔地に居住していて,その付添い又は見舞いが必要で社会通念上相当な場合などには例外的に認められるケースもあります。
付添看護費
入院又は通院の付添看護費は,医師の指示があった場合又は受傷の程度(症状の内容・程度),被害者の年齢等から付添看護の必要性が認められる場合は,被害者本人の損害として認められる場合があります。金額については,1日当たりの固定額で算出します。
休業損害
交通事故による怪我や入通院などによって,現実に休業によって喪失した収入額を損害として賠償を求めるものです。
賠償の対象となる休業期間は,原則として現実に休業した期間としますが,症状の内容・程度,治療経過等からして就労可能であったと認められる場合は,現実に休業していても賠償の対象にならないことや,一定の割合に制限されることもあります。
現実に休業により喪失した金額が判明している場合にはその額が,判明しない場合には基礎収入に休業期間を乗じて算定した額を損害とします。現実の収入減があることが原則となりますが,収入減が無くても,有給休暇を使用した場合には休業損害として認められます。
また,現実の収入が無い家事従事者の方についても,平均賃金などを基礎収入とした休業損害が認められる場合があります。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)とは,交通事故による受傷や治療期間中に受けたあらゆる精神的苦痛を総合的に金銭評価したものです。
「すごく痛かった。」「とても怖い思いをした。」「痛くて何週間も満足に眠れていない。」「思うように日常生活が送れない。」「通院に多くの時間が奪われた。」「楽しみにしていた予定をキャンセルしなければならず友人にも迷惑をかけた」など,治療期間中のあらゆる精神的苦痛がここに含まれています。
慰謝料は,3つの算定基準(①自賠責保険基準,②任意保険基準,③裁判所基準)の内,どの算定基準を用いるのかによって金額が大きく変動する項目ですので,弁護士に依頼することで大幅な増額を期待できます。
人損(被害者が死亡した場合)の示談金の損害項目
以上の一般的な損害項目に加え,交通事故の被害者が不幸にも亡くなられた場合には,以下の損害項目についても損害として認められます。
葬儀関係費
交通事故の被害者の死亡に伴う葬儀関係費は,固定の基準額が支払われるのが通常です。
この基準額には,葬儀代の他,原則として墓碑建立日・仏壇費・仏具購入費・遺体処置費等の諸経費を含むものとして考え,特別の事情がない限り,これらの金額を基準額に加算することはできません。
香典については,基準額から差し引かれることはありませんが,逆に香典返しや弔問客接待費等は個別の損害とは認められません。
死亡逸失利益
交通事故によって被害者が亡くなられた場合,本来,生存していれば将来的に得られたであろう収入を得られなくなります。
死亡逸失利益とは,被害者が生存していれば得られたであろう将来の収入額の喪失を,損害として賠償を求めるものです。
死亡慰謝料と同じく,金額が高額となる損害項目ですので,具体的な事情によっては示談交渉の結果次第で大幅に金額が変動する可能性があります。高度な示談交渉が求められるケースも多々ありますので,弁護士への依頼をお勧めします。
死亡慰謝料
死亡慰謝料とは,交通事故によって被害者が亡くなられた場合に,死亡した被害者の精神的苦痛を金銭的に評価したものです。
被害者自身は亡くなっているため,被害者の遺族(相続人)が受取人となります。他の慰謝料と同じく,各算定基準によって基準額が定められており,その範囲で支払われるのが通常です。(基準額には,本人分の精神的苦痛の他,ご遺族・近親者分の精神的苦痛も含まれています。)
人損(後遺障害が残存した場合)の示談金の損害項目
次に,交通事故の被害者に不幸にも後遺障害が残存してしまった場合には,前述の一般的な損害項目に加えて,以下の損害項目についても損害として賠償を求めることができます。
将来介護費
交通事故の後遺障害によって,介護を要する状態となった場合に,職業付添人に支払う介護費用や,近親者付添の労力の対価の賠償を求めるものです。
原則として平均余命までの間,職業付添人の場合は必要かつ相当な実費を,近親者付添の場合は,常時介護を要するときは1日あたりの固定基準額を,随時介護(入浴,食事,更衣,排泄,外出等の一部の行動について介護を要する状態)を要するときは介護の必要性の程度・内容に応じて相当な範囲の金額が,被害者本人の損害として認められます。
装具・器具購入費
交通事故の後遺障害によって,車椅子や補聴器,義歯・義眼・義手・義足,介護支援ベッド等が必要となった場合に,その購入費について,症状の内容・程度に応じて必要かつ相当な実費の賠償を求めるものです。
一定の期間で交換の必要があるものについては,装具・器具が必要な期間の範囲内で将来の費用についても認められます。
後遺障害逸失利益
交通事故によって不幸にも後遺障害が残ってしまった場合,その部位や症状によっては,労働能力が失われ,これまでどおりの仕事が続けられなくなったり,可能な業務の範囲が制限されたりすることがあります。
また,幸いにもこれまでどおりの業務が可能であったとしても,実際には,事故前と全く同じ作業をする場合でも,痛み等の不自由に耐えながらの作業を余儀なくされるなど,事故前にはしなくてもよかった苦労や努力を強いられ,労働効率が下がってしまうこともあります。
そのような後遺障害による労働能力喪失の結果として,被害者は,交通事故が無ければ本来得られたであろう収入を得られなくなります。
交通事故における後遺障害逸失利益とは,そのような交通事故に遭わなければ,後遺障害が残らなければ本来得られたであろう将来の収入額の喪失を損害として賠償を求めるものです。
後遺障害逸失利益については,慰謝料と同じく算定基準によって金額が大きく変わることに加え,労働能力の喪失率や喪失期間,基礎収入の範囲や金額など様々な観点から争いとなることが多い損害項目ですので,具体的な事情によっては,示談交渉の結果次第で大幅に金額が変動する可能性があります。
後遺障害慰謝料
交通事故によって不幸にも後遺障害が残ってしまった場合,被害者の方は今後生涯にわたって,その症状と向き合いながら生活を続けていかなければならず,様々な場面において大変な精神的苦痛を伴うことになります。
このような精神的苦痛を金銭的に評価したものが後遺障害慰謝料です。他の慰謝料と同じく,各算定基準によって基準額が定められており,その範囲で支払われるのが通常です。
損害費目を計算するための算定基準-3つの基準
以上のように,交通事故の示談金の金額は,様々な損害項目の合計で算出されることになりますが,各損害項目の金額を計算する算定基準は1つではなく,それを算定する下記3つの機関によって計算方法や基準となる金額が大きく異なっています。
①自賠責保険(自賠責保険基準)
②任意保険(任意保険基準)
③裁判所(裁判所基準)
※各基準の詳細については、こちらの記事にて詳細を解説しております。
交通事故の被害者が示談交渉をする上で必ず知っておくべきことは,この3つの算定基準の内,通常,被害者に最も有利な基準,すなわち最も支払額が大きくなる可能性があるのは,③裁判所基準であるということです。
そして,この③裁判所基準は,「弁護士基準」とも呼ばれることがあるように,通常,被害者(請求者)側に弁護士が就かなければ,相手方の保険会社は裁判所基準での示談には応じてくれません。
特に,慰謝料については,殆ど全ての事案で,相手方保険会社は①自賠責保険基準または②任意保険基準で算定した低額の示談提案を行ってきますが,これに対して,被害者の方がご自身で,裁判所基準での示談を求めても,相手方保険会社は特殊な事情でもない限り応じてはくれません。
よって,交通事故の示談交渉において,裁判基準に沿った適正な示談金を勝ち取るためには,弁護士への依頼は必要不可欠であると言えます。
示談金を受け取るための流れ
続いて,交通事故の示談金を受け取るための流れについて,交通事故の示談交渉の流れや,交通事故の示談交渉を進める上での注意点について解説していきます。
示談交渉の流れ
示談交渉を始められるタイミング
まず,交通事故の示談金は,原則として交通事故によって支払うべき損害賠償金の総額について算定しますので,その前提として,損害額の総額が確定している必要があります。
そのため,本格的な示談交渉を始められるタイミングは,損害が確定した時点,人損事故においては,症状固定の時点ということになります。
とはいえ,本格的な示談交渉に入る前に,事前に過失割合の点に絞って交渉を行ったり,治療中の相手方保険会社とのやりとりが症状固定後の示談交渉に影響する場合も多々ありますので,いずれにせよ弁護士への相談は早めに行っていただくことをお勧めします。
示談交渉の一般的な流れ
次に,症状固定などにより損害額が確定した後,一般的にどのような流れで示談交渉が進んでいくのかを説明していきます。
まず,相手方が任意保険に加入している場合,通常は相手方が加入している任意保険会社と示談交渉をすることになります。
一般的に,被害者(請求者)が弁護士に示談交渉を依頼していない場合,被害者は,任意保険会社から随時送付されてくる郵便物や電話による指示に従って,損害額の算定に必要な資料(領収書など)や,任意保険会社が自ら医療記録などの資料を取得するために必要な同意書等を任意保険会社に送付し,これに基づいて任意保険会社が,自社の有利な基準に沿って損害額を計算し,その金額を示談金として提案してきます。
これを受けて,被害者は,任意保険会社からの提案の是非を判断し,任意保険会社の担当者や相手方弁護士に対して,修正(増額)を求める内容やその合理的な根拠を考えて,それを電話や書面で伝えながら交渉を進めていくことになります。
これに対して,被害者(請求者)が弊所の弁護士に示談交渉の代理を依頼している場合には,弁護士の方から相手方保険会社に対して,損害額の算定に必要な資料の提示を求めることになります。
その後,相手方から提示された資料と,請求者であるご依頼者様から預けていただいた資料,そして場合によっては弁護士自ら取寄せた資料を基に,裁判所基準を用いて算定したご依頼者様にとって最も有利な示談金の額を算定します。
そのように算定した示談金の額に基づいて相手方保険会社に対して示談提案(損害賠償金の請求)をし,これを基準として示談交渉を進めていくことになります。
このような流れで進めることで,ご依頼者様は,相手方保険会社と直接やりとりすることなく,弁護士とのやりとりだけで示談交渉を進めることができます。
示談交渉を進めるうえでの注意点
消滅時効に注意
まず,注意しなければならないのは,交通事故の損害賠償請求権には消滅時効があるということです。示談交渉が難航している間にうっかり時効が完成してしまったということがないようにしなければなりません。
とはいえ,交通事故の損害賠償請求においては,事案によって様々な請求権が絡み合い,それぞれについて異なる時効の起算点や期間が設けられているため,一般の方が時効の管理をするのは大変難しいのではないかと思います。
そこで,一先ず,物損事故の消滅時効が完成する「事故日から3年」が一つの節目になることを覚えておき,それまでに余裕を持って示談ができない場合には早めに弁護士への相談を検討しましょう。
もちろん,事故日から3年を経過した後でも,例えば,人身事故の消滅時効は「事故日から5年」(但し,被害者請求については「治療を終えた日から3年」)であり,後遺障害のある場合は「症状固定から5年」(但し,被害者請求については3年)であるなど,請求可能な部分は残されていますので,あきらめず,そして焦って低額の示談に応じてしまうというようなこともないように,先ずは早めに弁護士にご相談ください。
示談の撤回は原則不可
示談は,当事者(被害者と加害者)が話し合いにより合意に至ることで成立しますので,その内容が必ずしも法令や裁判所の基準に合致している必要はありません。
例えば,裁判所で合理的に認められる適正な損害賠償の金額が100万円の事案であっても,理論上は,当事者の合意さえあれば150万円で示談することも可能ですし,逆に50万円での示談も有効に成立してしまいます。
そのため,相手方保険会社から提示された低額の示談提案に沿って一度でも示談を成立させてしまいますと,後から弁護士に相談するなどして適正な金額が判明したとしても,よほど特別な事情でもない限り,一度成立させた示談を撤回することは極めて困難です。で
すので,弁護士への相談は,必ず,示談を成立させる前に行いましょう。
交通事故の示談交渉は弁護士に任せるメリット
さて,これまで見てきましたとおり,適切な示談金の金額を勝ち取るためには様々な損害項目について正確に理解し,交渉を進めていく必要がありますが,これまで解説してきた内容はそのごく一部にすぎません。
また,慰謝料をはじめ各損害項目には3つの基準があり,自賠責保険基準や任意保険基準では,裁判所基準と比べて低い金額の示談金しか得られません。そのため,適切な示談金を勝ち取るためにも,示談金の交渉は,弁護士に任せるべきであると言えます。
以下では,交通事故の示談交渉について,弁護士に任せるべき理由について説明していますので,ご自身で示談をする前に是非参考にしてみてください。
最も高額な算定基準に基づいた賠償金を獲得することができる
不幸にも交通事故により負傷してしまった場合,残念ながら事故に遭う前の身体に戻ることはできません。
もちろん,お金で全てが解決できるわけではありませんが,法律で認められている現実的な手段としては,加害者(多くの場合,加害者が加入する自賠責保険会社や任意保険会社)からできる限りの金銭賠償を得ることによって損害の補填を図るという解決方法しかありません。
しかし,同じような怪我で全く同じ通院期間の場合でも,各損害項目について自賠責保険基準・任意保険会社基準と裁判所基準とでは,金額に大きな開きがあります。
この記事をお読みになられている方は,「それなら自分で裁判所基準で交渉すればよいのでは?」と思われた方もいるかもしれませんが,弁護士に依頼せずに自分で裁判所基準での交渉を要求しても,殆ど全ての保険会社は応じてくれません。
なぜならば,いくら「裁判所基準で示談できないならば裁判をする」と相手方に迫ってみても,実際は一般の方が弁護士に依頼しないまま訴訟を提起するケースは稀であることを相手方保険会社は知っています。
また,仮に一般の方が,弁護士に依頼しないまま無理に訴訟を提起したとしても適切かつ有効な訴訟活動を行うことはできないことが殆どであるため,相手方保険会社は顧問弁護士などに依頼して容易に有利な判決を勝ち取るができるので,わざわざ裁判所基準で交渉をする必要性はありません。
※実際に法廷でも見かけるのですが,被害者の方が自身で訴訟活動を進めたり,柵の外にいる(法的な訴訟代理資格が無いために傍聴席から中には入れない)無資格者からの助言を受けながら進めているケースでは,多くの場合,(おそらく本人は気付いていませんが)客観的に見て,とても「残念な」「気の毒な」結果に終わってしまいそうな訴訟活動をされている方が多々おられます。
これに対して,弁護士が代理人についている場合には,裁判所基準で示談交渉をしなければ裁判に発展し,相手方保険会社にとって不利な判決を受ける可能性が非常に高いため,相手方保険会社は素直に裁判所基準による示談交渉に応じてきます。
交渉を有利かつスムーズに進められる
仮に正しい計算方法や算定基準で,適切な示談金額を計算できたとしても,それによって自動的に示談金の金額が決まるわけではありません。実際に示談金を受け取るためには,保険会社と示談交渉をする必要があります。
しかし,相手方保険会社は,いわば交通事故交渉のプロであり,顧問弁護士などのサポートも受けていますので,様々な角度から,もっともらしい理由をつけて,あの手この手で示談金の金額を減額するよう策を凝らしてくるのが通常です。
これに対して,一般の方が,相手方保険会社から提示を受けた慰謝料の金額が適切なのかどうか,相手方保険会社の説明が妥当なものであるのかどうかについて,適切に判断することは難しく,交通事故交渉のプロである保険会社と対等にわたりあうことは通常困難を極めます。
そこで,弁護士に依頼することで,このような不利益を受けることなく,相手保険会社と同等以上の立場で交渉を有利かつスムーズに進めることが可能です。
保険会社とのやりとりはすべて弁護士が行う
弁護士に依頼された場合は,交渉の窓口が被害者から弁護士に代わります。弁護士が被害者の代理人となりますと,保険会社は被害者自身へ直接連絡することができなくなり,すべて弁護士を通すこととなります。
交通事故に遭われて辛い思いをされている中,さらに交渉までご自身で行うことは非常に精神的な負担を伴います。弁護士に依頼することでこの交渉の負担から解放されます。
示談交渉開始前の対応もサポート
先ほど説明したように相手方との本格的な示談交渉が開始するのは,損害額が確定した後です。
とはいえ,それ以前の対応(例えば,通院の方法や頻度,相手方保険会社への報告内容など)が賠償額に大きく影響する損害項目は沢山あり,示談交渉において適正な示談金を獲得できるかどうかは,損害額が確定するまでの対応が鍵となります。早めに弁護士に依頼すれば,示談交渉開始前の対応についてもサポートを得られるため,結果として適切な賠償額を得られやすくなります。
まとめ
交通事故の示談金を正しく算定するためには,様々な構成要素と算定基準を正確に理解することが必要となります。
また,苦労して適切な示談金額を計算できたとしても,それによって自動的に示談が成立するわけではなく,相手方保険会社との示談交渉が待っています。
加えて,特に慰謝料について,最も高額な裁判所基準による金額で算定した適切な示談金を,裁判をせずに勝ち取るためには弁護士に依頼しなければなりません。
適正な計算方法,算定基準(裁判所基準)で算定した適切な示談金を獲得するためにも,積極的に弁護士に相談して代理交渉を依頼することが推奨されます。